オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
フィリピン人の日本の介護事情について語る。
知り合いにフィリピン人の介護師がいるので、その仕事の状況や日本におけるフィリピン人介護師の立場を知りたくて本書にたどり着いた。
序盤は、フィリピン人を介護してとして受け入れるまでの、日本とフィリピン外交的経緯から日本で介護士として働くまでのフィリピン人が受けなければいけない教育過程など、現在の介護の状況を説明している。フィリピン人というと風俗などのイメージが付きまとってしまうが、本書を読んでフィリピン人が介護士としては非常に優秀であることがわかった。中盤からは現在日本で介護士として働くフィリピン女性たちの生活やそれぞれの持つ悩みについて書いている。彼女たちにとって介護士として働くために問題なのは、漢字の読み書きや職場の人間関係なのだという。
人材不足の日本の介護事情を解決するための手段として期待されるフィリピン人介護士ではあるが、僕らの持つ印象とは違って、問題となるのは彼女たちの教育よりもむしろ、受け入れる側の環境の問題なのだとわかった。日本人介護士に起こりがちな職場問題が、南の国で育った彼女たちには受け入れがたいのだろう。
後半はフィリピンで老後を過ごす日本人たちを紹介している。彼らの日本を出るという決断までの経緯と、現在の状況を読むと、フィリピンで過ごすのも悪くない気がしてきた。
本書は現在のフィリピン人による介護状況の概要を知りたいとう要求にはしっかり答えてくれた。
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カテゴリー: 和書
「毎朝、服に迷わない」山本あきこ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スタイリストの著者が服のコーディネートについて語る。
まず重要なのは、
ということだ。そのコンセプトにのっとって、本書ではさまざまな「使いまわしのきくアイテム」を紹介している。基本的に女性向けのコーディネートを扱っているが、男性にも採用できるアイテムや考え方が含まれている。個人的に「さっそく買ってこよう」と思ったのがストライプシャツ、ジージャン、白のトートバッグである。
毎日私服で働いている人にとってはファッションは印象を大きく左右するもの。不必要に労力やお金をかけたくはないが、考え方ひとつで大きく改善できるならぜひしたい。早速本書の考え方を取り入れていきたいと思った。
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「さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問から始める会計学」山田真哉
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
誰も買っているところを見たことないにもかかわらず、定期的に街をまわってくるさおだけ屋や、ベッドタウンにあるフランス料理店など、身近に存在する不思議な例で好奇心を刺激して、その流れで会計を説明する。
非常に有名な本ではあるが、今まで読んだことがなく、今回妻との会話のなかから「そういえばさおだけ屋ってなんで潰れないんだっけ?」という会話の流れで読むことになった。全体的には楽しく読むことができたし、雑談に使えそうなネタがいくつか増えたきがする。
もちろん会計について理解するには本書だけでは不十分で、そこは本書で著者も述べているように、他の専門書に譲っているということだ。そんな著者の狙い通り、会計学についてもっと詳細を勉強したいと思った。そういう意味では「難しくない会計学」という、本書が目指していた目的は達成できたのではないだろうか。
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「僕は君たちに武器を配りたいエッセンシャル版」瀧本哲史
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
これからの時代の生き方について語る。
どちらかというと、これから社会に出て行く若い人向けに書かれた内容だが、僕のような社会人10年以上の人間が読んでも学ぶ部分はある。
物と同じように、人も同じ能力を持った人間がたくさんいれば、価格競争になってしまう。つまりコモディティ化が進んでしまうのだ。賃金を下げたくなければコモディティにならない生き方をすることが重要なのである。
著者はコモディティ化しないための生き方として4つの生き方をあげている。
イノベーター
リーダー
インベスター
である。今後の生き方を改めて考えさせられた。
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「Webコピーライティングの新常識 ザ・マイクロコピー」山本琢磨
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マイクロコピーの重要性を、過去の著者の経験と実例をもとに語る。
トップページの修正ではひどい時には2週間以上かかり、いったんサイトの稼働を止めなければならないほどだったのに、奥のページにいけばいくほど修正箇所は小さくなる。修正にかかる時間も短くなり・・・なのに売り上げは大きく上がる。
興味深いのは、たくさんの例を本書で示しているにもかかわらず、結局のところどんなサイトでも通用するような正解のコピーの書き方はないということである。あるサイトで成功したコピーが他のサイトでは逆効果になることもあり、そのサイトのユーザー層によって傾向は変わるのだという。結局、何度もABテスト等を繰り返して探っていくしかないのだという。
実際にコピーを見直す時にもう一度読み直したいと思った。
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「去就 隠蔽捜査6」今野敏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「隠蔽捜査」に始まる竜崎伸也(りゅうざきしんや)のシリーズの第6弾である。
大森署署長を務める竜崎のもとに 大森署管内で連れ去り事件が発生する。このシリーズの面白い点は、毎回事件解決と同じぐらい警察組織内の政治が描かれている点である。今回もその点では同様で、組織内の立場や面子を気にして行動する人々の中で、ひたすら論理的に行動して正義を貫く竜崎の生き方が爽快である。
今回は、竜崎の娘の美紀(みき)の恋人との問題を仲介したり、署内の女性警察官、根岸紅美(ねぎしくみ)の業務改善をする過程でストーカー問題に焦点があたっている。
読み終えて気づいたのだが、このシリーズの面白さは竜崎伸也(りゅうざきしんや)の真っ直ぐさだけで、他に特に学ぶ部分はないのである。にもかかわらずこうやって第6弾まで読み続けている点が面白い。きっと同じように竜崎の生き方だけに魅力を感じてこのシリーズを読み続けている読者は多いのだろう。
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「なるほどデザイン 目で見て楽しむデザインの本。」筒井美希
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
誰にでもわかりやすくデザインについて書いた本。
正直このようなデザインの「良い」「悪い」を語った本は多く、あまり内容が深いとは言えないので今まで敬遠してきた。しかし、本書は友人のデザイナーたちも持っているので、以前より気になっていたのである。デザインを仕事にしている僕に取ってもいくつか新しいことを知ることができた。
タイトルに「止め」を作る
なかなかデザイナーとして長く仕事をしていると、少しずつ別のデザイナーの視点に触れる機会が少なくなってくる。たとえ新しく知ることのできることが1割程度だったとしても、このような本にもっと触れるべきかもしれないと思った。
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「反転授業」ジョナサン・バーグマン、アーロン・サムズ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
講義を録画した動画を事前に見てきて、授業中は生徒たちが学んだことを確認するために費やす「反転授業」について書いている。
5年前、YouTubeを利用して講義を公開して有名になったカーンアカデミーに興味を持った際に「反転授業」という言葉を知った。反転授業が効果があることは当時も想像はついたが、生徒に事前に講義の動画を見せるというのは難しいのではないかと感じていた。その後「反転授業」がどのように発展したのかを知りたくて本書を手に取った。
本書はただ単に「反転授業」の説明だけにとどまらず、どのようにそれを学校の授業に取り入れるかまで丁寧に説明している。著者の2人が本当に世の中の教育を変えたいのだという思いが伝わってくる。
後半では「完全習得学習」という考え方に触れている。完全習得学習とはその名の通り、生徒一人一人が異なるペースで学習し、理解度が一定の基準に達するまで行うという学習である。その効果は認められていたが教師の負担が大きいことからこれまで広まらなかった。興味深いのは、著者の2人が、動画を利用した反転授業によって「反転型完全習得学習」を目指している点である。
「UX虎の巻」坂東大輔
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
UX向上のための方法について書いている。
序盤でUXの一般的な考え方について触れている。著者も書いている通り、UXに明確な定義はないが、ISO版のUXの定義、UXのハニカム構造、Elements of User Experienceはしっかり覚えておきたいと思った。
第5章の「UX向上の具体例」では、UX向上方法についてかなり詳細に書いている。多くのUX関連の書籍が、ユーザーインタビューなどの、調査に多くのページを割いていることを考えると、本書はUX向上のためのテストについて詳細に書いている点が印象的だった。
特にメッセンジャーアプリ、ハードディスクレコーダーなどの具体例の中で
ユースケースの詳細化
UXチェックリストの作成
UXテストの実施
のUX向上の鍵となる流れをわかりやすく解説している。全体的にはなかなかすぐに役立てられるようなものではないが、知識として持っておくぶんには悪くないように感じた。UXをこれから勉強しようとしている人に勧められるような本ではない。
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「ファシリテーションの教科書 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」吉田素文
オススメ度 ★★★★☆ 3/5
組織の英知を結集するためにファシリテーションが重要だと感じ、本書を手に取った。
本書はファシリテーションを「仕込み」と「さばき」という大きな2つの部分に分けて構成している。「仕込み」の章で面白かったのが「出発点と到達点を明確にする」という点。ビジネスにおける議論は次の4段階から形成され、その出発点と到達点を意識する必要があるというのである。
- 「議論の場の目的共有」
- 「アクションの理由の共有・合意」
- 「アクションの選択と合意」
- 「実行プラン・コミットの確認・共有」
必ずしも議論の参加者全員が同じ段階にいるとは限らないため、参加者によっては個別にケアして納得感を持った状態で同じ出発点に立ったうえで議論を開始する必要があるだろう。
後半は、「さばき」であり、一般的にファシリテーターの求められる能力はこちらの方が大きいのではないだろうか。「さばき」の基本動作として本書では
- 発言を引き出す
- 発言を理解し、共有する
- 議論を方向づける
- 結論づける
という4つを挙げている。それぞれの動作について考えられる障害、それに対するアドバイスがたくさん書かれており、定期的にファシリテーターを務める人であれば手元に一冊おいておいて何度も見返したくなることだろう。個人的には「発言の理解」の部分が印象的で、論点(=問い)、主張、根拠、目的を考えて人の意見を聞くということの重要性気付かされた。ファシリテーションを学びたくてたまたま本書を手に取ったが非常に満足である。
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「理科系の作文技術」木下是雄
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
読む人に伝わる作文技術についてわかりやすく解説している。
ブログなどで世の中に発信する機会は今後増えていくだろう。それによって今まで以上に伝わりやすい文章を書く必要があると考え本書を手に取った。
物語は、新入社員である新田文(にったあや)に先輩である梶山聡(かじやまさとし)が仕事のなかで文章の書き方を指導していく。どれも仕事でもブログでも文章を書くときに活かすために覚えておきたいことばかりである。
まずは
必要でないことは一切書かない
当たり前ではあるが、どうしても不必要なことを書き込んでしまう。
文章を書き始める前に、その文章を何を目標として書くのかをはっきりさせるということ。目標があることによって「必要なこと」と「必要でないこと」の判断がしやすくなる。
概念から細部へ
どちらも文章を書く際によく言われることであるが常に意識していないと難しい。すべての人間が書いた文章をすべて読むとは限らないということを意識すべきなのだ。
逆茂木型とは修飾句や修飾節の長い文章をのことである。日本語で何かを説明しようとするとどうしても修飾節が長くなりがちだが、意識して文章を分けたりすることで解決できる。
また、意見と言っても6つに分けられるというのはこれまで考えたこともなかった。
判断
意見
確信
仮説
理論
書こうとしていることが、6つのうちのどれに当てはまるのか、これから意識して文章を書きたいと思った。
知識として持っていただけでいい文章が書けるわけではないが、今後意識していきたい。この本は「理科系の作文技術」という新書をベースとして書かれたということなので、そちらの本も近いうちに読もうと思った。
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「モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書」尾原和啓
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
「乾いている世代」「乾けない世代」という言葉を使って、今の若者たちの価値観の違いを語る。
「乾いている世代」である団塊世代よりも上の世代に、今の30代以下の人たちの持つ価値観を教えるような内容でもあるが、一方で逆に、「乾けない世代」である若者たちにこれからの時代の生き方を教えているようでもあり、何が言いたいのかはっきりしない印象を受けた。
改めて本書の目的を確認したくて「はじめに」を読むと「若い世代のモチベーションを理解することが最大の武器となる。」と書いてあるので、ターゲットは若者の考え方の理解できない年配者だったのだろうが、中盤あたりからは若者向けの内容になっている。おそらく、著者が言いたいことを適当に書き綴ったものを集めて出版にしただけなのだろう。
章ごとのつながりも希薄なために、書籍全体としての目的がはっきりしない印象を受けた。読む人によっては新しい情報もあるのかもしれないが、基本的に他の書籍などでも触れられている考えばかりで、特に新しいことはなかった。
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「侍」遠藤周作
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
キリスト教への迫害が進むなか、長谷倉六右衛門(はせくらりくえもん)は藩主の命により宣教師ベラスコとともに海を渡ることとなった。
遠藤周作の名作の一つとして前回読んだ「沈黙」で描かれていた宣教師の葛藤が印象的だったため、本作品もと思い手に取った。
物語は、キリスト教の世界のなかで名声を高めようとする宣教師ベラスコと、先代から受け継がれていた土地を返してもらうために、海を渡ることを決意した侍、長谷倉六右衛門(はせくらりくえもん)の視点で交互に描かれる。
驚いたのは、まず当時のスペイン領メキシコに向かった点である。当時スペインが巨大な植民地を持っていたことは知識と知っていたが、やはり物語としてそれを味わうのは違うもの。彼らは東回りでメキシコへ到着し、その後スペインを目指すのである。この時代にはまだパナマ運河がなかったために、一行はメキシコ到着後に、大西洋側に移動してから別の船でスペインにむかったのだということも併せて知った。長い航海のなかで何人かの人は命を落とし、また暴風雨で船から投げ出されるなど、物語を通じて当時の旅の難しさを知ることができた。
その後一行はさらに、ローマ法王に謁見するためにローマに向かう。
当時のキリスト教の布教が、ペテロ会とポーロ会という2つの派閥の間で起こっていたことを知る。ポーロ会宣教師ベラスコとペテロ会の宣教師たちが議論するシーンでは、日本での布教がなぜこれほど難しいのかについても語っており、日本人の持っている考え方の特殊な部分について改めて考えさせられるだろう。
また、武将として一つの時代をいきながらも時代の変化のなかで戦が減り、新しい生きる道を探しヨーロッパに向かうこととなった長谷倉六右衛門(はせくらりくえもん)からは、当時の時代の変化が人々に強いた変化を感じることができる。
本書を読み終えて、どうやら本書が実在の人物支倉常長を題材としているということに気づいた。支倉常長という名前は耳にしたことはあったが何をやった人物かということは知らなかった。本書でその航海のために作られたガレオン船も、実在した船サン・ファン・バウティスタ号をモデルとしており、それは支倉常長とともに宮城でとても有名で博物館もあることを知った。近いうちに行ってみたいと思った。
また、遠藤周作という作家については、人の心の葛藤を描くのがうまいと感じた。キリスト教を深く調べているにもかかわらずどちらかというと否定的な描き方をしているので、キリスト教に対してどのような考えを持っていたのか、作家自身の考えについて興味を持った。
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「GRIT(グリット) 平凡でも一流になれる「やり抜く力」」リンダ・キャプライン・セイラー/ロビン・コヴィル
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
成功する人とそうでない人の差はなんなのか。それは社会的知性(SQ)でもなければ、知能指数(IQ)でもなくでも、GRITという呼ばれる力なのだという。本書はそんな成功するための力「GRIT」について語っている。
序盤ではこれまで考えられていたIQの重要性を否定してからGRITに語っていく。GRITとは度胸(Guts)、復元力(Resillience)、自発性(Initiative)、執念(Tenacity)という4つの力で、多くの実例を交えて説明している。
まず印象的だったのは「夢を捨てされ」の章である。僕らは「夢を持つこと」はいいことだと教わってきた。それは確かに目標に向かう原動力となり得るのだが、夢を語ってばかりで実際にその1歩を踏み出さない人も多くいるのだという。夢想している暇があったら「今日できることをする」という考え方が重要なのだという。
また、拒絶されても立ち直る力を身につけるために、ある男性が行なったリジェクションセラピーの話も面白かった。投資家からの資金提要を断られたことがショックだった彼は立ち直る力を身につけるために、100日間連続で人に断られることを目標にしたのだ。断られるための無茶な要望にもかかわらず、受け入れてくれた人がいたことから、男性は自分の望みを叶えるためには拒絶を恐れずに、頼んでみることが重要なのだと知るのである。拒絶は人間の否定ではなく、ただ単にあなたの要求が相手の求めているものにマッチしなかったというだけなのだ。
終盤の「期限は無限」の章で紹介されていた、92歳の時にアルファベットを学び始め、98歳のときにベストセラーを書いた男性の話は、多くの読者へ、将来への希望を与えてくれるだろう。
多くの例は触れられているものの、実際にどのような方法をとればGRITが身に付けられるのかはわかりにくい。それでも「忍耐力」、「楽観主義」、「固定思考」よりも「成長思考」と、いくつかの鍵となる考え方を知れば今後の生き方のヒントとなるのではないだろうか。何よりもいい話に溢れているので一読の価値ありである。
【楽天ブックス】「GRIT(グリット) 平凡でも一流になれる「やり抜く力」」
「羊と鋼の森」宮下奈都
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2016年本屋大賞受賞作品。高校生のときに、調律師の仕事に魅せられた男性外村(とむら)が、調律師として成長していく様子を描く。
調律師という仕事を、実際にその仕事に従事している人のの視点で見せてくれたことがありがたい。調律師という仕事があることは知っていたが、それはギターの音を合わせるように、一定の周波数に音を合わせる誰にでも機械的にできる作業かと思っていた。どんな仕事も毎日その作業を行う人のしか見えない深さがあるのだろう。それが、こうやって物語として触れると、自分がその仕事をしているかのように深く見えてくるから不思議である。
個人のピアノを調律するのと、コンサートのピアノの調律をするのは大きく違ことや、その会場の物の配置が変わっただけで音に影響が出るということが新鮮だった。また、物語中で語られるこんな言葉にも感動した。
主人公である外村(とむら)のほかにも、同じ職場で調律師として働く人が出てくる。天才調律師の板鳥(いたどり)、元々はピアニストを目指していたが諦めて調律師となった秋野(あきの)、バンドでドラムをしている柳(やなぎ)である。調律師として生きる人にもいろんな過去があることが面白い。
毎日こつこつと技術を積み上げていく職人気質の仕事に改めて魅力を感じた。
【楽天ブックス】「羊と鋼の森」
「希望荘」宮部みゆき
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
妻と離婚して新しい人生を歩み始めた38歳の杉村は、知り合いからの勧めによって探偵事務所を開くこととなった。そんな杉村が扱った4つの事件を描く。
杉村三郎シリーズの3作品目で、前作「ペテロの葬列」で妻との別れを決意したあとの杉村を描いている。実は、娘がいて離婚経験者ということで、どこか年上のような気がしていたが予想以上に年齢が違いことを知り、今回はいつも以上に親近感を持って読むことができた。
4つの物語のなかでもっとも印象的だったのは3番目の事件「砂男」である。地元の繁盛していた蕎麦屋の若い亭主が、不倫をして失踪した事件で、その不倫相手の女性の行方を探すこととなるが、調査を進めるうちにその男性にはつらい過去があることがわかってくるのだ。父や妻の複雑な感情と行動を描いていて、4つの物語の中でもっとも宮部みゆきらしさを感じた。
また、4番目の物語である「ドッペルゲンガー」では東北大震災を題材にしている。阪神大震災を題材に含めた物語にはたびたび出会うが、東北大震災を描いている物語はまだ少ないため新鮮だった。
宮部みゆきは期待値が高いだけに、それなりの作品でも失望の方が大きくなってしまうのが評価の難しいところである。本作品もそれほど悪くはなかったのだが、宮部みゆきらしい人間の感情を切り開くような表現があまり見られなかったのが少し残念だった。
【楽天ブックス】「希望荘」
「スペースシャトルの落日 失われた24年間の真実」松浦晋也
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人を宇宙に運ぶという輝かしい使命よりも、むしろコロンビア空中分解事故、チャレンジャー爆発事故で印象的なスペースシャトル。そもそもスペースシャトルという計画はどのような目的でどのようにして始まったのか知りたくて本書を手に取った。
面白いのはスペースシャトルを思い描く時誰もが最初に思い描くであろうあの大きな翼は、実はほとんど意味がないということ。言われてみれば確かに、宇宙は無重力空間だからもちろん翼による揚力は発生するはずもない。地球に帰還するときに少しだけ役に立つのだという。むしろその翼がスペースシャトルを設計する上で一つの大きな足かせになっているのだという。人を運ぶのに必要な設備と、物を運ぶのに必要な設備は大きく異なり、その2つを同時に詰め込もうとしたために困難になってしまったのだ。
ちなみに、報道でスペースシャトルのことを聞いていると、チャレンジャーやコロンビアなどいろんな名前があるけど見た目的な区別がつかないと思っていたが、どうやら機体は同じで名前だけが異なるということ。
本書を読んでスペースシャトルは、そもそもの設計として大きく間違っていたことや、政府や地方経済に大きく影響を与えるほどの巨大プロジェクトは、大きな政治的圧力がかかるゆえになかなかうまく進まないことがわかった。しかし、月面着陸を果たしたアポロ11号や奇跡の生還で知られるアポロ13号に代表されるアポロ計画はどのようにすすめられたのだろう。次はアポロ計画について知りたいと思った。
【楽天ブックス】「スペースシャトルの落日 失われた24年間の真実」
「The Da Vinci Code」Dan Brown
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ルーブル美術館のキュレーターJacques Saunièreが技術館の館内で殺された。その死ぬ間際に書き残したメッセージによって、警察から殺人の疑いをかけられた言語学者のLangdonはJacques Saunièreの孫娘Sophieとともに真実を探ることとなる。
映画化もされた有名作品ではあるが、すでに映画を見たかどうかも忘れており、新鮮な気持ちで読むことができた。本書でもっとも興味深いのはやはり、物語中でも最大のテーマになっている、イエス・キリストの新しい真実だろう。
なんとローマ帝国のコンスタンティヌス以前は、キリスト教およびユダヤ教は女性を神聖化していたのだという。ローマ帝国が国教として取り入れるにあたって、それまでの考え方を政治に都合のいい方向に変えていった結果、今の女性の地位が男性より低い世の中になっているというのである。
物語としてはキュレーターJacques Saunièreの残したメッセージの謎を少しずつ解きながら非常に価値のある宝物に近づいていくという使い古された形式ではあるが、その過程で描かれる真実が印象的なので物語全体を面白いものにしている。
本より映画のほうがいいこともたくさんあるので、映画を否定するわけではないのだが、映画を見てしまうと深い物語が2時間のひどく陳腐で大衆受けする物語になってしまうこともよくあり、この物語は映画が有名だっただけになおさらそんな印象を持っていたが、実際こうして原作を読んでみるととても素敵な物語だということを知った。
映画しか見ないでこの物語を評価した人に、おそらく物語の内容を忘れてしまったであろう今、改めて本書を読んで欲しいと思った。
「悲劇的なデザイン」ジョナサン・シャリアート、シンシア・サヴァール・ソシエ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザインがおかしいせいで、人の死につながったり、大きな事故を起こしたケースを紹介しながらデザインの重要性を説く。
序盤は、医療機器の操作方法がおかしくて大量の放射線を浴びて死に至った患者の話や、操縦席の計器の表示がわかりにくくて墜落した飛行機の話などデザインが生み出した悲劇を紹介している。
「医療機器や飛行機のデザインは僕らが扱っているデザインとは違う」などと他人事と思ってはいけない。中盤以降ではFacebookやLinkedInなどのUI /UXによって一生忘れないようなひどい体験をした人のエピソードを紹介している。
本書を読めば、デザイナーは自分の仕事の大切さと責任を再確認することだろう。そして、デザイナーでない人でも、クリエイティブな世界で生きる人間は自分の作り出すものがどのような結果をユーザーにもたらす可能性があるのか、その責任の大きさを改めて認識することだろう。
インターネットが普及したせいで、実際に傷ついている人を目にする機会は少なくなったが、それでも確実に、自分たちの作ったものはユーザーに使いにくく感じさせたり、疎外感を与えたりしているのである。迷った時は僕らは、実際にそのような対応を店のスタッフにされたら自分がどう感じるのか考えるべきだ。そう考えることによってエラーメッセージひとつとってもたくさん改善すべき箇所が見えてくるにちがいない。
デザイナーだけでなく、多くの人に読んで欲しいと思った。終盤で著者も語っているが「人はみなデザイナー」であり、声をあげ、行動することで世の中は使いやすいもので溢れ、過ごしやすくなっていくのである。
「Thinking Objects:Contemporary Approaches to Product Design」ティム・パーソンズ
「Articulating Design Decisions」キャロル・リギ
「User-Centered Design Stories」トムグリーバー
【楽天ブックス】「悲劇的なデザイン」
「フラットデザインで考える新しいUIデザインのセオリー」宇野雄
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
YahooのUIデザイナーがフラットデザインについて語る。
出版が2014年ということで、移り変わりの激しいUIデザインにおいて4年前の本というとすでに古すぎるのではないかという懸念もあったが、デザインの移り変わりを理解するためには悪くないのではないかと感じで手に取った。
さて、序盤こそフラットデザインについて語っているものの、後半はなぜか「UIデザインの本質」といって、基本的なUIの役割について本の半分ほどを割いている点が残念である。多くのUIデザイナーにとっては前半の100ページまで読めば十分なのではないだろうか。唯一この本が与えてくれた新しい刺激は、今まであまり関心がなかったWindows Phoneで採用されているModern UIに目を向けてくれた点である。
【楽天ブックス】「フラットデザインで考える新しいUIデザインのセオリー」