「コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた」細田高広

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コンセプトとは何か、コンセプトの必要性、そしてコンセプトの作り方を語る。

昨今、コンセプトの重要性が語られることが多くなってきた。大きなビジネスから小さなプロジェクトまで、明確なコンセプトを持っていることは、ブレなく進めるための必須条件と言ってもいいだろう。僕自身デザイナーとして、デザインコンセプトをクライアントと一緒につくることが多いので、さらにその精度を上げたいと考え、本書にたどり着いた。

重要なことはすべて前半に詰まっており、なかでも機能するコンセプトの条件、コンセプトと似て非なるもの、はいつでも取り出せるようにしたいと思った。

機能するコンセプトの条件
・「顧客目線」で書けているか
・「ならでは」の発想あるか
・「スケール」は見込めるか
・「シンプル」な言葉になっているか
コンセプトと似て非なるもの
・コンセプトはキャッチコピーではない
・コンセプトはアイデアではない
・コンセプトはテーマではない

面白いのは、コンセプトを作る過程でインサイト型ストーリー、ビジョン型ストーリーという二つのストーリーづくりを取り入れている点である。インサイト型ストーリーは次の4つのCでコンセプトを語る物語を作ることである。

  • Customer インサイト
  • Competitor 競合
  • Company 自社だけのベネフィット
  • Concept 新しい意味

具体的には次のようになるという。

  • 1 昔々あるところに、xxで困っている生活者がいました。
  • 2 しかし、世界中の誰も助けることができません。
  • 3 そこで、◯◯は自らの特殊な力を使って手を差し伸べました。
  • 4 つまり、□□という解決策によってユーザーは救われたのです。

コンセプトは非現実的になりかねないので、競合、消費者を交えた文章にするこの手法は取り入れたいと思った。ビジョン型ストーリーの冒頭では混乱しがちなミッションとビジョンを定義している。

  • MISSIONとは 組織が担い続ける社会的使命
  • VISIONとは 組織が目指すべき理想の未来

もう一つのわかりやすい説明として、それぞれ、創業、現在、未来と時間軸を用いて次のようにも説明している。

  • MISSION なんのために生まれたか?(創業)
  • CONCEPT いま、なにをつくるのか?(現在)
  • VISION なにを目指すのか(未来)

以降は良いコンセプトの作り方をさまざまな手法とともに説明している。どれも読んだだけだとわかった気になってしまうので、早速自分が関わる組織や活動に対して実践してみたい。

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「臨場」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
殺人事件が疑われる場所へ臨場する検視官のなかでも、多くの警察関係者から一目置かれ「終身検視官」と呼ばれる倉石義男(くらいしよしお)が、その洞察力で事件の真相を見抜いていく。

本書は8編の短編から構成されているが、共通しているのは死亡事件が発生し、検視官の倉石(くらいし)が真相の解明に重要な役割を担うことだろう。

8編の短編集というと一冊の本としては物語の数がやや多い。物語の数が多ければそれぞれの内容が薄くなりそうな気もするが、横山秀夫の手にかかるとページ数など関係ないことがわかる。少ないページ数に登場する、被害者、捜査官、新聞記者、いずれもそれぞれの人生がしっかり描かれることに驚かされる。

元々「クライマーズ・ハイ」や「ルパンの消息」「ノースライト」「64」など著者の作品には好きな作品が多いが、改めて、有名ではない作品も含めて横山秀夫作品は全部読まないとならないと感じた。

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「しろがねの葉」千早茜

しろがねの葉

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第168回(2023年)直木賞受賞作品。両親とはぐれたウメは銀の採掘で栄えていた石見で喜兵衛(きへい)のもとで生きることとなる。

石見で少しずつ大人になっていくウメの様子を描く。子供の頃は周囲の子供たちと同じように、大人たちをみてやがて銀山で働く人間になろうとする。しかし、成長するに従って、自分が女であり、石見では男と女の生き方は大きく異なることに気づいていく。男は多くの銀を掘り当てることて周囲からの尊敬を集めるが、その過酷な労働環境から長くは生きられない。一方、女は労働力となる男をたくさん産むことを求められ、夫が早死にすれば、またべつの夫と再婚して子供をもうけることを求められるのである。

そんな環境でウメは、幼い頃は喜兵衛(きへい)のもとで銀の採掘に関する多くのことを学びながらも、やがて、幼馴染の隼人(はやと)の妻となって多くの女性と同じように生きることとなる。

石見銀山については地理も歴史もほとんど知識がなかったので新鮮ではある。一方で、一人一人の登場人物、特にウメ、喜兵衛(きへい)、隼人(はやと)などの生き方や考え方をもっと深掘りできたら、もっと良い作品になったのではないだろうか。

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「あなたの才能も一気に開花 プロだけが知っている小説の書き方」森沢明夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
小説家の著者が小説の書き方を語る。

最近小説を書いてみようかと思い立って、書き始めたのだが、予想以上に難しい。特に自分の体験は比較的書けるにもかかわらず、女性の登場人物が難しい。少しでもヒントがあればと思い本書を手に取った。ちなみにこの著者の作品には触れたことがないので、面白い小説なのかどうかもわからない。

本書は作家を志す人々からの質問に答える形で、著者の考え方を解説している。特にどれかの項目が印象的だったわけではないが、なんとなく行き詰まった時に何をすべきか掴めた気がする。

また、詰まった時にこのような本に触れたいと思った。

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「Chatter 頭の中のひとりごとをコントロールし、最良の行動を導くための26の方法」イーサン・クロス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
内省という素晴らしい行動を呪いに変えてしまうチャッターを、良い方向に導く方法について語る。

本書では「循環するネガティブな思考と感情」をチャッターと呼び、その特徴や制御するための方法を語っている。昨今、人間の幸せは、持っている物の量やお金の量よりもむしろその人のマインドセットに依存する、というのはよく聞く話である。しかし、ではどんなマインドセットを持てばいいのかどのようにしてそのマインドセットを育てればいいのか、という点においてはなかなか明確な指針がない。本書はそんなニーズに応えた構成となっている。

基本的な解決策は、自分から距離を置いて状況を客観的に見ること、であり、その手法についてさまざまな説明や関連する話と合わせて説明している。

僕自身は比較的客観的に自分を見つめることが得意な人間だと自負しているが、本書によるとそれは必ずしもそれはいいことばかりでないらしい。特に嬉しい時などは自分を客観視している人間は、自分に埋没している人ほど素直に喜べないのだと言う。

ラファエル・ナダルが試合中に重視するさまざまな儀式の重要性など、関連する物語も面白かった。末尾にチャッターを制御するための26の方法が掲載されているので、チャッターに振り回されそうになった時のために覚えておきたい。

自分だけで実践できるツール
1.距離を置いた自己対話を活用しよう。
2.友人に助言していると想像しよう。
3.視野を広げよう。
4.経験を試練としてとらえ直そう。
5.チャッターによる身体反応を解釈し直そう。
6.経験を一般化しよう。
7.心のタイムトラベルをしよう。
8.視点を変えよう
9.思ったままを書いてみよう。
10.中立的第三者の視点を取り入れよう
11.お守りを握りしめる、あるいは迷信を信じよう。
12.儀式を行なおう。
チャッターに関する支援を与えるためのツール
1.感情・認知面のニーズに応えよう。
2.目に見えない形で支援しよう。
3.子供にはスーパーヒーローになりきってみようと言おう。
4.愛を込めて(敬意も忘れずに)触れよう。
5.他の誰かのプラセボになろう。
チャッターに関する支援を受けるためのツール
1.顧問団をつくろう。
2.体の触れ合いを自分から求めよう。
3.愛する人の写真を眺めよう。
4.儀式を誰かと一緒に行おう。
5.ソーシャルメディアの受動的使用を最小限にしよう。
6.ソーシャルメディアを利用して支援を得よう。
環境に関わるツール
1.環境に秩序を作り出そう。
2.緑地をもっと活用しよう。
3.畏怖を誘う経験を求めよう。

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「存在のすべてを」塩田武士

オススメ度 ★★★★★ 5/5
1991年厚木と山手で同時発生した男児誘拐事件、厚木の被害者は直後に無事保護され、山手の被害者は3年後祖母の家に戻ってきた。時効を過ぎた2021年、新聞記者の門田次郎(もんでんじろう)が空白の3年間を追う。

物語は誘拐事件を担当していた刑事中澤(なかざわ)の死をきっかけに、空白の3年間を追うことを決意した新聞記者の門田次郎(もんでんじろう)と、もう一方で画廊を経営する30代の女性土屋里穂(つちやりほ)の視点で進む。

誘拐事件の被害者だった内藤亮(ないとうりょう)は現在は著名な写実画家として成功をしており、高校時代は里穂(りほ)と同級生だったのである。週刊誌で報道された同級生の近況に触れて、里穂(りほ)は過去の甘い想いに思いを馳せるのである。

並行して、門田次郎(もんでんじろう)の調査によって少しずつ誘拐事件の空白の3年間が明らかになっていく。誘拐事件と空白の3年間に対して沈黙を続ける内藤亮(ないとうりょう)との間に、一人の写実絵画家の存在が浮かび上がっていく。古い体質の美術界で大成することのできなかった才能の持ち主である彼が、一体どんな経緯を経て誘拐事件に関わることとなったのか。

その過程で写実絵画の深さや、美術界での立ち位置や、閉鎖的な美術界などが描かれる。そして次第に写実がに情熱を注ぎながらも慎ましく生きる優しい男女の姿が浮かび上がっていく。

ひさしぶりに面白い作品に出会った。登場人物がただの名前だけの存在でなく分厚い人生とともに描写されていてどの人生にも共感できる。また写実絵画という新しい世界まで見せてくれるうえに、里穂(りほ)の物語からは一途に一人の男性を想う甘い恋が描かれており、さまざまな要素を見事なバランスで一つの物語に仕上げた作品。極上の読書時間を体験させてもらった。

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「地図と拳」小川哲

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第168回(2022年下半期)直木賞受賞作品。1899年、日本が満州へと領地を拡大するなか、その地で生きる日本人や中国人を描く。

日本の側は、満州の地図を描くプロジェクトを中心にそこに関わる人々を描く。一方で中国の側は、外国人が押し寄せてきたことによって家族や家を失った李大綱(リーダーガン)が、その思いを力に変え、のし上がっていく様子と合わせて、同じように不幸な環境で育ったその娘の孫氶琳(ソンチョンリン)を中心に描く。

タイトルにあるように日本の川では満州の地図を描くことや建築についての思考錯誤する様子が繰り返し描かれる。現代で言うとAIのように、正確な地図が広まっていなかった当時は、正確な地図を描くことが単に個人の知識としても、国家間の争いにおいても大きな意味を持ったことが伝わってくる。

しかし、満州という新しい国土をどのように発展させるかを議論を重ねて進める中で、満州という場所を国土として維持できないのであれば、苦労して築いた場所がそのまま敵国のものになってしまうという事実もあるのである。世界を巻き込んだ戦争へと突き進む中で、立場や持っている情報によって、日本人の間でも満州にしっかりとした街を築こうとするものと、満州への資源の投資を節約しようとする人など立場が分かれるのが興味深い。

カンボジアの内戦を描いた「ゲームの王国」でも感じたことだが、著者小川哲が膨大な時間をかけて歴史の調査にあてながら物語に仕上げているのを感じる。しかし、その一方で、それぞれの登場人物の心情描写が乏しく人間としての深みがほとんど感じられない。登場人物の個性が薄いため名前だけの存在になってしまい、読んでいるうちに誰が誰だかわからなくなることが多々ある。読者として有意義な読書にするためには、人間の物語に期待するのではなく、教科書よりも詳細に描かれた歴史として、少しでも現代に通じる真理や知識を学び取ろうという積極的な姿勢が求められる。

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「可燃物」米沢穂信

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
群馬県警の葛(かつら)警部の下に起こった5つの事件を扱う。

群馬県で起こった、遭難事件、交通事故、殺人事件などを部下と共に対応する葛(かつら)警部を描いていく。

正直登場人物が薄っぺらい。著者米沢穂信は以前よりたびたびその作品に触れて、年齢とともに作品が深みを増しているのを感じる。今回もさらに深みを増した作品を期待しただけに、登場人物の人生も言動も薄っぺらく残念である。

警察物語だと深い物語を書けないというなら日明恩の作品を読んでほしいし、短編集だと深い作品を描けないというなら「第三の時効」など横山秀夫の作品を読んでほしい。

王とサーカス」のような良い作品を知っているだけに、本作品から本気で書いている感がまったく感じられない。著者が暇潰しで書いのではないかと思われるような薄っぺらい物語の集まりである。

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「成瀬は天下を取りにいく」宮島美奈

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第21回(2024年)本屋大賞受賞作品。けん玉やシャボン玉など幼い頃からなんでもできて、周囲に振り回されない生き方を貫く中学二年生成瀬あかりの様子を友人の島崎(しまざき)が語る。

成瀬(なるせ)と島崎(しまざき)は地元の西部デパートの閉店のカウントダウンで毎日西武に通うことにしたり、一緒にM-1グランプリに出場するために漫才をしたりするのである。そんな毎日一生懸命生きる二人の様子はきっと良い刺激になることだろう。

本書の魅力は成瀬(なるせ)の真っ直ぐな考え方やその行動力であるが、もう一つ面白いのは滋賀県の膳所(ぜぜ)を舞台にしていることである。大都市でもなければ田舎でもなく、そんなほどほどの街だからこそあまり物語に登場しない場所なので新鮮である。

全体的に、成瀬(なるせ)真っ直ぐに生き方が爽快である。現実ではなかなかここまで割り切って生きることが難しいからこそ、読者の琴線に触れるのではないだろうか。とりあえず自分も成瀬を見習って200歳まで生きることを挑戦したいと思った。

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「君のクイズ」小川哲

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
早押しクイズ大会の決勝戦で不可解な解答によって破れたは、クイズ関係者から上がるヤラセ疑惑を解明しようとする。

本書はクイズに人生を賭ける三島玲央(みしまれお)が、タレントである本庄絆(ほんじょうきずな)に早押しクイズ大会の決勝戦で敗れることから始まる。最後の問題は、問題文が読まれる前に本庄絆(ほんじょうきずな)がボタンを押して正解をしたことから、クイズ関係者のなかではタレントを勝たせたいという番組によるヤラセ疑惑が浮上したのである。

そんななか三島玲央(みしまれお)は冷静にその番組を見返してヤラセ以外の説明ができないか分析していく。その過程でクイズの実情が見えてくる。クイズでは、知識の量を競っているわけではなくクイズの強さを競っており、クイズに強い人はそのための技術や駆け引きを常に駆使しているのである。

正直感情移入できるような登場人物は一人もいない。ただクイズを扱った稀有な作品であり、新たな世界に目を向けてくれる点では一読の価値ありである。

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「インフレーション宇宙論」佐藤勝彦

★★★☆☆ 3/5
宇宙の始まりに関するインフレーション理論について説明する。

宇宙の物語について少しでも理解したくて、宇宙論や量子論に関する本を読んでおり、本書にもその過程で出会った。

本書ではビッグバン理論までの流れとビッグバン理論の矛盾を説明し、その後インフレーション理論を説明していく。
相変わらず想像上の話が多く理解しずらいが、インフレーション理論とはそれまでのビッグバン理論を否定するものではなく、ビッグバン理論では説明できないビッグバン理論以前の宇宙を説明する理論、つまり捕捉する理論であることがわかった。

相変わらず読めば読むほどわからない考えや理論が溢れてくることに圧倒される。暗黒物質、暗黒エネルギー、真空のエネルギー、グレートウォール、力の統一論など、引き続き知識を深めていきたいと思った。

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「THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法」ダニエル・コイル

★★★★☆ 4/5
優れたパフォーマンスを発揮するチームを作る方法をさまざまな実例とともに説明する。

昨今は心理的安全性などが多くの組織で語られるように、単純に優れた人間を集めただけでは組織は最高のパフォーマンスを発揮できないことはわかっているだろう。しかし、実際にそのような組織を作るのは簡単ではない。著者ダニエル・コイルは才能を育てることをテーマにした「The Talent Code」が印象的だったので、本書も組織作りに関しての新たな視点をもたらしてくれることを期待して手に取った。

本書は3つの章から成る。

  • 安全な環境をつくる
  • 弱さを共有する
  • 共通の目標を見る

一部の人間には「弱さを共有する」というのは新鮮かもしれないが、自分にとってはむしろこの言葉がこれまであまり語られてこなかったのが不思議なくらいである。本書ではチームのパフォーマンスは次の5つの要素の影響を受けるとしている。

  • 1.チームの全員が話、話す量もほぼ同じで、それぞれの1回の発言は短い
  • 2.メンバー間のアイコンタクトが盛んで、会話や伝え方にエネルギーが感じられる
  • 3.リーダーだけに話すのではなく、メンバー同士で直接コミュニケーションを取る
  • 4.メンバー間で個人的な雑談がある
  • 5.メンバーが定期的にチームを離れ、外の環境に触れ、戻ってきた時に新しい情報を他のメンバーと共有する

全体的に違和感ないが、それぞれ1回の発言の短さの重要性に触れている点が印象的である。つまり、中心人物が長々と演説をしているようではチームは育たないということだ。

最後の共通の目標を見るの章では、ジョンソン&ジョンソン、ピクサー、チャータースクールKIPPなどのさまざまなエピソードと共に、組織内で優先することを言葉として繰り返すことの重要性を伝えている。どんな組織でも使えそうな印象的な言葉がたくさんあったので、ここに挙げておきたい。

  • 問題を愛する
  • 門番ではなく使者になれ
  • 自分より賢い人を雇う
  • すべての人のアイデアを聞く

期待した通りいろいろな気づきを与えてくれる作品。会社だけでなく家庭でも今日から実践できることばかりである。一方で、リモートワークが普及する中で、これをオンラインで実現するにはどんな方法があるか、まだまだ試行錯誤が必要だと感じた。

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「THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す」アダム・グラント

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
考え直すこと、つまり既存の考えを見つめ直すことの重要性とその方法を語る。

著者アダム・グラントは「GIVE & TAKE」が有名な著者である。いつも刺激的な視点をもたらしてくれるので本書も同様に新たな考えを風をもたらしてくれることを期待して手に取った。

本書では、知的柔軟性の重要性をテーマに、新たな考えを受け入れること、周りの人に再考を促す方法、学び続ける組織を創る方法について順を追って説明している。

知的柔軟性を妨げているのは自分の予期するものを見る確証バイアスと、自分の見たいものを見る望ましさバイアスであり悪い流れと良い流れを過信サイクル再考サイクルとして次のように説明している

過信サイクル
自尊心→確信→確証バイアス&望ましさバイアス→是認
再考サイクル
謙虚さ→懐疑→好奇心→発見

また、学び始め直後に訪れる根拠のない自信をマウント・スチューピッドと表現しているのも面白い。全体的に改めて自分が過信サイクルに陥っていないで学び続けているかを考え直すきっかけとなった。

中盤の周りの人に再考を促す方法の話は、自分にとっては耳が痛い話ばかりである。

「完璧な論理」と「正確なデータ」だけでは人の心は動かない

解決策を言うべきではない、相手に寄り添わなければならない、など言われることは多々あるが実際にどうすればいいかがわからない人は多いのではないだろうか。悪い動機づけとして16項目挙げておりどれも興味深く、自分がやってしまった出来事にかぎらず、他者から受け取った行為も含めると身に覚えのあるものばかりである。

  • 当人のせいにしようとする
  • 説教する
  • 当人の意見を退ける
  • 恥入りさせる
  • 何をすべきか指示する
  • 支援しない
  • 当人の気持ちを気にかけない
  • 受動的攻撃
  • 愛情を示さない
  • 品位を傷つける
  • 当人の主張に耳を貸さない
  • 尊敬を示さない
  • 脅しの作戦をとる
  • 怒鳴る
  • 操作する
  • 小バカにする

本書の中には人に再考させるための多くの助言があるが、簡単な実践例としては、自分の考えを一才語らずに、相手の考えを語らせるということだろう。早速妻や子供相手に実践してみたいと思った。

そして、最後の学び続ける組織を創る方法では、心理的安全性について触れている。心理的安全性について「恐れのない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」など、昨今そこらじゅうで語られているので、良い復習の機会となった。

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「エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」」吉田満梨/中村龍太

★★★★☆ 4/5
優れた起業家が実践するとされる手法であるエフェクチュエーションについて語る。

変化の早い現代において、不確実性への対処が必須となっており、世の中の多くの人や組織やそんな不確実性への対処に頭を悩ませている。その手法として一般的なのが、目的の定義と市場の分析から入る手法である。本書ではそのような手法をコーゼーションと呼んでおり、もう一つの選択肢としてエフェクチュエーションを提案するとともに説明していく。

エフェクチュエーションとは簡単に説明すると、自分の持っている資源を活用して小さく始めていく、ということである。本書では5つの原則として、つぎの項目を挙げ、続く章でそれぞれの詳細について説明している。

  • 手中の鳥の原則 「目的主導」ではなく、既存の「手段主導」で何か新しいものを作る
  • 許容可能な損失 機体利益の最大化ではなk、損失(マイナス面)が許容可能化に基づいてコミットする
  • レモネードの原則 予期せぬ事態を避けるのではなく、むしろ偶然をテコとして活用する
  • クレイジーキルトの原則 コミットする意思を持つ全ての関与者と交渉し、パートナーシップを築く
  • 飛行機のパイロットの原則 コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果を帰結させる

小さく始めるという点においてはリーンスタートアップなどにも共通しているが、目的や理想に縛られることなく、動きやすい範囲で動いていくというのは、かなり取り組みやすい現実的なアプローチに感じた。注意すべきはコーゼーションのアプローチを否定しているわけではなく、重要なのは使い分けや二つのバランスであるということである。

コーゼーション方向に寄りすぎている考え方の人にとっては大きな気づきとなるだろう。

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「コーチング思考」五十嵐久

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
経営者専門のコーチである著者がコーチングの重要性と考えを語る。

年齢を重ねると若い頃のようにさまざまなことを指摘してもらう機会が減ってくるし、どうしても決まった考え方に流れがちである。そういう意味ではコーチングが重要であることは明確なのだが、コーチをつけた経験もないので、実際それがどんなものなのだかがわからない。同時に、むしろ自分自身が妻や子供、同僚への良いコーチになりえるなためのヒントが得られるのではないかと感じてこちらに辿り着いた。

コーチングにおいて重要な考え方のいくつかを箇条書きにしてくれている点がありがたい。例えば次のような項目である。

コーチャビリティを伸ばす「SPACE」
・自分を知っている(Sele-Awareness)
・情熱がある(Passion)
・当事者意識がある(Accountability)
・好奇心旺盛である(Curiosity)
・実行力がある(Execusion-Ability)

本書ではコーチャブルな人間としてこの項目を書いているが、成長を続けられる人の特徴とも言える。常に自分がSPACEであるか意識したいと思った。

なかでももっとも印象的だったのが、成功の循環モデルというものである。

成功の循環モデル
・関係性の質
・思考の質
・行動の質
・結果の質

世の中には良いサイクルと、悪いサイクルがあり良いサイクルは関係性の質の改善から取り組むのに対して、悪いサイクルは結果の質を改善しようと取り組むとしている。これこそまさに、世の中のうまくいっていない企業や人間関係を端的に表していると感じた。

全体的に日本の本屋にあふれている余白だらけでどこかで聞いたような話の寄せ集めのような内容の薄い本に見えたが、読んでみると初めて聞く話など印象的な内容もあった。

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「コロナ漂流録 2022の銃弾の行方」海堂尊

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
コロナの感染者数が増える中、前首相が手製の銃で狙撃される。コロナ禍の東城医大を中心に政治や社会の様子を描く。

コロナ三部作の三作品目である。前二作品と同様に、実際の出来事にかなり忠実に描かれているので、前首相の狙撃などは描かれているものの、読者の想像を超えるような物語の大きな動きは少ない。一方で中抜きのために税金を大量に投入してつくったコロナアプリや、ワクチンの補助金を受け取りつつワクチン開発を断念した企業の問題など、今まで御用メディアが報じない政治の深刻な問題に目を向けてくれる。

随意契約で四億円、問題が発覚した後の再委託が三億五千円、総額七億五千万円の税金を投入して開発されたアプリは、不具合が次々に噴出して機能不全になっていた。
しかも支払いは中抜きに次ぐ中抜きで、実際に開発した下請け会社に渡ったのはたったの四百万円だったというのだから、呆れて物が言えない。

上場以来二十年、株式市場から資金調達を続けながらも一度も黒字化していない製薬会社で、ワクチン開発実績ゼロのベンチャーに百億円以上も補助金をだすなんて決めやがったのは、一体どこのどいつだよ

結果として国への大きな失望感を感じるとともに、一人の国民として行動をしなければならないという危機意識を再認識させられた。そしてまた、世の中の動向を知るにはテレビだけでは不十分どころかむしろ危険で、多方面の視点から描かれた感想や物語に触れるのが一番だと感じた。

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「Ank:a mirroring ape」佐藤究

★★★★☆ 4/5
京都で暴動が発生したは霊長類研究に起因するものだった。霊長類研究者の鈴木望(すずきのぞむ)が暴動を止めるために奔走する様子を描く。

物語は京都で発生した暴動と、そこに至るまでの京都の霊長類研究所の周辺で起こった出来事や関係者の間でのやりとりなどを交互に行き来しながら展開していく。

鍵となるのが類人猿だけが身につけた自己鏡像認識という能力である。鈴木望(すずきのぞむ)は自己鏡像認識が人類の言葉の発展の鍵と捉え、霊長類研究に情熱を注ぐのである。そんななか研究のためにアフリカから傷ついたチンパンジーを輸送したことから不測の事態へとつながっていく。

やがて不幸な出来事の連鎖により人間同士の暴動へとつながっていく。集団感染を世間が警戒する一方、現場近くにいた鈴木望(すずきのぞむ)は集団感染ではないとしながらも証拠なしに動かない国家のために自ら原因を特定しようとするのである。

正直物語のスピード感はそれほどではないが、どこまでが本書に限ったフィクションなのかがわからなくなるほど霊長類や人類の進化に関する科学的な視点を多くもたらしてくれる。そもそもApeとMonkeyの違いを知らなかった。Monkeyは猿だが、Apeの日本語訳は類人猿なのであり、映画「猿の惑星」は翻訳の都合から猿になっただけで、英語タイトルはThe Planet of Apesで、猿ではなく類人猿とするのが正しいのだという。

久しぶりの理系小説である。「パラサイト・イヴ」のような物語と同時に科学の世界に引き込まれるような楽しさを味わせてもらった。理系読者は存分に楽しめるのではないだろうか。

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「球界消滅」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本のプロ野球が4球団に縮小され、アメリカのメジャーリーグとの統一リーグとなることとなった。プロ野球の関係者たちはプロ野球の未来と自分の立場を憂いながらも大きな変化に適応しようとする。

選手、ファン、監督などさまざまなプロ野球関係者の視点から、日本のプロ野球とメジャーリーグ(以下MLB)の統合の動きを追っていく。もっとも興味深いのは大野俊太郎(おおのしゅんたろう)という20代の青年だろう。彼はファンタジーベースボールという実際のプロ野球のデータをもとに競うゲームで優勝者となったことから日本の球団の副GMという仕事にたどり着いたのである。「マネーボール」のような緻密な分析を日本のプロ野球に取り込んだことでチームの成績を上げたにも関わらず、プロ野球とMLB統合という大きな波に飲まれていくのである。

日本のプロ野球とMLBとの統合という考えは、サッカー界が国をまたいだ大会によって大きな成功を収めていることを考えると、現在の閉鎖的なプロ野球でありかつ人口減少が止まらない日本における解決策としては興味深い。しかし、細かいルールの違い、チームが抱える選手数の違い、移動距離の問題、など、実際に実現しようとなると克服しなければならないさまざまな障害があるのである。本書はそれぞれの登場人物の物語とともにさまざまな問題を取り上げていく。

物語として面白いかどうかは別として、プロ野球にかぎらずスポーツビジネスに興味がある人は楽しめるだろう。個人的に興味を持ったのが、アメリカで最も人気のあるスポーツアメリカンフットボールのビジネスモデルである。年間1チーム20試合に満たない試合数でこれほど成功するスポーツの秘訣は一体なんなのか、今年のシーズンは興味を持って見てみたいと思った。

面白く描いたスポーツのビジネス書として捉えるとちょうどいいかもしれない。

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「Aではない君と」薬丸岳

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第37回(2016年)吉川英治文学新人賞受賞作品。建設会社で働く吉永圭一(よしながけいいち)は14歳の息子の翼(つばさ)が、同級生の殺害の容疑で逮捕されたことを知る。

物語は離婚して、息子が大きくなるとともに少しずつ疎遠になっていった息子が、同級生の殺害の容疑で逮捕されたことで、息子との絆を取り戻そうとする父親吉永圭一(よしながけいいち)の様子を中心に描く。

息子は本当に同級生を殺害したのか、そこにはどんな理由があったのか、離婚して以来、家族と疎遠になっていたからこそ息子を心の底から信じきれない吉永(よしなが)の言動が痛々しい。

また、中盤以降翼(つばさ)は少しずつ真実を口にしはじめる。加害者だけでなく、殺害された少年の父親すら真実を封印したくなる出来事が明らかになっていく。

心を殺すのは許されるのにどうしてからだを殺しちゃいけないの?

少年犯罪を扱った作品はこれまでにも何度か出会ったが、本書はより親として立場に焦点をあてている。一人の親として改めて、子供たちの窮地にどのように行動すべきか、正解のない問いを突きつけられた。

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「メタバース未来戦略」久保田瞬/石丸尚也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
メタバースについての現状と起こりうる未来を説明している。

メタバース議論のなかでつねに発生するのが15年以上前に同様の考えで広まったSecondLifeである。僕自身SecondLifeを時間をかけて楽しんだ人間なので、メタバースが実現しようとしている世界だけでなく、その限界も一般の人よりもわかっているつもりではいるが、よりその認識の精度を上げたくて本書を読むに至った。

SecondLifeとの違いとして、技術や通信速度の向上による違いはよく言われることだが、メタバースにおいては、モデリングの技術の発達も大きな成功を予感させる要因だという。つまり現実の世界をスキャンしてメタバース上に複製することが比較的簡単にできるのだという。SecondLifeで人々がやっていたように、世界の有名な場所を一生懸命作り上げる必要はないのである。

本書自体すでに出版から3年経っており、いつのまにかメタバースという言葉が話題に上がることも少なくなってきた。読みながら、本書で触れられているHorizonWorldなどのメタバースアクセスを試みるが限られた地域でしかアクセスできないとのことである。本書の出版からあまりメタバース世界に大きな進歩はないようだ。

進歩が滞っている理由はわからないが、一時期の熱が冷めて、世間のメタバースへの見方は冷静になっていくだろう。改めてクリエイターとしてまた一人のユーザーとしてどのような使い道があるのか考えるきっかけとなった。

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