オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第143回直木三十五賞受賞作品。
昭和の初めに東京に出て、平井家という家庭で「女中」として過ごしたタキが、今、当時を振り返って綴る。
戦前から戦時にかけても物語は数多くあるが、本作品のタキのように戦争を「どこか他人事」として描いた物語は珍しいのではないだろうか。だからこそ、極端に当時を批判したり美化したりする事もなく、その当時の人々の自然な生活の雰囲気が伝わってくる。
一方で、そのタキが書いているものを、甥の息子である健史がときどき読んでしまってタキに対して意見を述べるのが面白い。その健史の視点こそ、僕ら現代に生きる人々の、当時に対する印象を代表しているように思う。
僕らは歴史的事実としてしか当時を知らない。例えば、その当時、東京でオリンピックが開催される事が決まって、人々がどこかわくわくしていたことを知らないのだ。なぜなら結果的にそのオリンピックは戦争によってなくなり、20年遅れて1960年に開催される事になったのだから。僕らが見る過去は、最終的な結果としてのこった過去であり、それが作られる過程はその時代を生きている人にしかわからないのだろう。
2.26時間や太平洋戦争など、まちがいなく激動の時代ではあったのだろうが、当時の人々は決して不幸ではなかったと、伝わってくる作品である。
【楽天ブックス】「小さいおうち」