「正欲」朝井リョウ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第34回柴田錬三郎賞受賞作品。水に魅力を感じる人々、自分の性癖がおかしいと知りながらも悩みながら生きていく様子を描く。

さまざまな性癖を持つ人物を並行して描いていく。水に魅力を感じる桐生夏月(きりゅうなつき)男性に恐怖心を抱く八重子(やえこ)を中心に、物語が進むに従って、同じように水に魅力を感じる人たちが描かれる。そんななか唯一、一般人の目線として描かれる検事寺井啓喜(てらいひろき)は、本書では理解力のない頑固な父親として描かれている部分もあるが、非常に論理的でありわかりやすいと感じた。

どんなに満たされない欲求を抱えていたって、法律が定めたラインを越えたのならば、それは、罰せられなければならない。

子となる性癖や価値観の存在を理解しようと努めることは大事だし、ネットによる晒しの私刑など社会的制裁は否定されるべきである。しかし法治国家として機能するためには結局これが許容範囲と犯罪を分ける境界線なのだろう。世の中はそれができているだろうか。不必要に非難したりしていないだろうか。

僕自身LGBTQの人々に理解がある方だと感じているが、では児童性愛者に対してはどうかというと自信を持って答えられない。しかし、好みは人の自由であり、法律を逸脱しない限り尊重されて良いのだと感じた。

凪良ゆう本屋大賞受賞作品「流浪の月」が児童性愛者を描いていて評価されたときに驚かされたが、本書も性癖の特殊性を物語にした点が似ているなと感じた。世の中が、このようなテーマを受け入れて世の中に出そうという風潮がになってきたのだろう。

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「何者」朝井リョウ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第148回直木35賞受賞作品。

就職活動に悩む4人の大学生を描いている。

ルームシェアをする拓人(たくと)、光太郎(こうたろう)と、たまたまそのアパートの上の階に住んでいた理香(りか)とその留学友達瑞月(みづき)は、エントリーシートなどの作成とともに就職活動をしていた。それぞれの就職活動の進捗状況を伺いながら、強がりながらも、すこしずつそれぞれの行動に本性が滲み出てくる。そんななか、それぞれが、TwitterやInstagramを発信しており、そこで強がったり、人を見下したりしている様子が描かれるのである。

実際の就職活動がここまで陰鬱としたものかどうかは疑わしいし、ここまで今のこの世代の人たちがSNSに縛られているとは思えないが、誰もが本書で描かれているようなん、強がっている自信家の外向けの顔と、思い悩む弱いうち向けの顔、他人を思う優しい顔、などを使い分けているのかもしれない。

朝井リョウの作品は今まで2作品読んだが、どこか薄っぺらい印象を持っていたが、人の二面性を描いていて、一皮むけた感じがする。人を冷めた目で見る拓人(たくと)や、不器用にも就職活動を突き進む理香(りか)、そして就職活動をしている人々を「没個性」と語って夢に逃げる理香(りか)の恋人の隆良(たかよし)など、誰もが、いずれかの行動に共感を覚えるのではないだろうか。

若い作家の作品は、あるとき突然進化するが、朝井リョウにとって本書がそれにあたるように感じた。この先の作品も読んでみたいと思った。

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「もういちど生まれる」朝井リョウ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学生を中心とした複数の登場人物を扱った物語。

汐梨(しおり)、ひーちゃん、風人、尾関、ダンサーのハル、椿と梢の双子の姉妹、翔太、佐倉結実子、渡辺新、ナツ先輩。10代後半の大人になる途中の若者たちの悩みが描かれている。夢や恋や嫉妬や兄弟愛などである。

特に大きな学びがあるわけではないが、独特の雰囲気を持っているので、好きな人はいるのではないだろうか。朝井リョウの作品は本作品で二作目だが、いまいち魅了されるほどには至っていない。登場人物と同じ悩みを共有できる10代や20代に受けているのかもしれない。

個人的には登場人物の名前の美しさが印象に残った。

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「桐島、部活やめるってよ」朝井リョウ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
バレー部のキャプテン桐島が部活を辞めた。同じときに同じ高校で生活を送っている生徒達の物語。
男子生徒、女子生徒だけでなく、クラスの中心人物、誰からも相手にされないような目立たない生徒など、さまざまな生徒の視点から物語を展開する点が面白い。
クラスでの上下を意識して、自分は「下」だと考える映画部の生徒の視点がある一方で、「上」に位置付けられるサッカー部でクラスの目立つ存在である生徒が、映画部が映画について語る時の生き生きした表情にあこがれるシーンが印象的だ。
他人から見たらどんなにうらやましがられるような、例えばスポーツ万能、容姿端麗な存在であったとしても、悩みを抱え、自分以外の境遇をうらやみながら生きているのだということを認識させられる。
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