「鎖」乃南アサ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第115回直木賞受賞作品の「凍える牙」で活躍した音道貴子(おとみちたかこ)刑事が登場すると知って、この本を手に取った。
占い師夫婦とその信者2名の計4人が殺害された事件に関わったことによって、音道貴子(おとみちたかこ)自らも大きな犯罪に巻き込まれていく。
物語の冒頭で貴子(たかこ)が同僚の男を見て感じる言葉が印象的だ。

男という生き物は、いったいいつから少年でなくなるのだろう。少年どころか、青年の面影すら残さずに中年になっている男は、いつからすべてを捨てているのだろうか。

前半は貴子(たかこ)の過酷さの中でもポジティブに物を考える姿勢が好意的に移る。そして、後半は自分だけは助かりたいという弱い心と人を助けようという使命感。その二つを行き来する貴子の心の描写がに引き込まれる。
また、犯罪に走った犯人たちの心にも共感できる部分があり、それもまたこの物語を引き立ててくれて、単純な犯罪小説には終わらせない。特に、自身の不幸から犯罪に加担せざるを得なかった中田加恵子(なかたかえこ)の人生は、「同情」などという表現で片付くはずもない。そして、今の世の中、彼女のような人間が現実に存在しても決しておかしくないということを訴えかける。
貴子の友人がぼやく言葉が心に残る。

この世の中っていうのはただ息してくらしてるっていうだけで、金がかかるように出来ているのよ。やれ税金だ、保険料だ、年金に、受信料だなんたって。

松岡圭輔の書く岬美由紀(みさきみゆき)、内田康夫の書く(浅見光彦)。彼らと同じくらい音道貴子(おとみちたかこ)は芯のしっかり通った人間で、彼女の存在はこの「鎖」によって僕の中で一段と大きくなった。彼らが架空の人物だということは知っていてもである。
乃南アサにはもっと音道貴子(おとみちたかこ)シリーズを書いてほしい、そしてその後の彼女を知りたいと思った。

Nシステム
警察によって路上に設置された監視カメラ。正式名称は「赤外線自動車ナンバー自動読取装置」と言う。その数は、全国の公道上に600個所以上設置されており、類似したシステムである「オービス」が違反車両だけを撮影するのに対し、Nシステムは、通過した全車両、全ドライバーの移動を記録している。
参考サイト:http://www.npkai-ngo.com/N-Killer/01whats-nsys.html
ストックホルムシンドローム(ストックホルム症候群)
被害者が犯人に、必要以上の同情や連帯感、好意などをもってしまうこと。
1973年にストックホルムの銀行を強盗が襲い、1週間後事件が解決した後、人質の1人であった女性が、犯人グループの一人と結婚してしまったことから由来する。
参考サイト:http//www.angelfire.com/in/ptsdinfo/crime/crm3gsto.html
武蔵村山市
埼玉県との県境にある新興住宅地。鉄道も幹線道路も通っておらず、桐野夏生の「OUT」でも舞台になっている。

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