「桜ほうさら」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
父親の死の謎を解くため江戸へ出てきた笙之介(しょうのすけ)はそこで書を生業として生活を始める。
笙之介(しょうのすけ)の父、宗左右衛門(そうざえもん)は身に覚えのないにも関わらず自らの筆跡と思われる文書によって罪を被り、それによって自殺した。人の筆跡をそっくりまねて書くことなど可能なのだろうか。笙之介(しょうのすけ)は江戸で普通の生活を送りながら、そんな技術を持った人を探そうとする。そんななかで笙之介(しょうのすけ)の出会い人々があたたかい。
また書を生業とするゆえに、笙之介(しょうのすけ)の書に対する強い思いも見えてくる。笙之介(しょうのすけ)曰く、書とは人を映すもので、人の筆跡を寸分違わずまねる事ができる人間がいるとしたら、その人間は心までその人間になりきれる人間だと言うのだ。文字を書くことが少しずつ廃れていく現代だからこそ、この笙之介(しょうのすけ)の考え方は印象的で、もう一度文字を書く事と向き合いたくさせてくれる。
そして、笙之介(しょうのすけ)は温かい人々の助けを借りながら真実に近づいていくのだが、結末は人間の欲望や弱さや信念を感じさせてくれる。著者宮部みゆきは現代を舞台にした物語と同じぐらい、江戸を舞台とした物語を書くが、舞台が江戸で時代が100年以上前でも、人の心のありかたは現代と変わらない気がする。本書を読んで、むしろ宮部みゆきがなぜ江戸という舞台設定にここまでこだわるのか知りたくなった。きっと何か信念があるに違いない。

皆、等しく人なのだ。力に奢る者も人なら、その力に虐げられる者も人なのだ。
人の世では、親子でも相容れないことがある。解り合えないことがある。気持ちが食い違い、許し合えないことがある。どれほど思っても、通じないことがある。立場と身分が、想いの真偽を入れ替えることがある。 

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