オススメ度 ★★★★☆ 4/5
クリスマスイブの夜に不登校になっていた中学生の柏木卓也(かしわぎたくや)は学校の屋上から落ちて死んだ。自殺なのか、他殺なのか。そして不登校になる直前にクラスメイトと起こした諍いは関係あるのか。
宮部みゆきには珍しい中学校を舞台とした物語。1人の生徒の死をきっかけとしてその周囲の人々、特に同じクラスの生徒たちを中心に、その心の動きを描く。その過程で生徒達がお互いに抱いている、恐れや怒り、嫉妬や無関心といった、それぞれの悩みが見えてくる。
印象的だったのは、病弱だった弟の柏木卓也(かしわぎたくや)と比べて、健康だったために、あまり親に相手にされなかった兄宏之(ひろゆき)が明かす心の内である。親の愛を勝ち取ろうして関係を悪くする兄弟の存在も決してありえないものではないと感じさせる。
生徒達はクラスメイトの死に加え、先生達の対応、マスコミによって報じられる学校の姿に傷つき、やがて警察官の父親を持つ藤野涼子(ふじのりょうこ)を中心に、真実を知るために裁判を開く事を決意するのである。
人々の心の内はその裁判によってさらに深く見えてくる。もっとも印象的なのは死亡した生徒、柏木卓也(かしわぎたくや)の人間性だろう。柏木卓也(かしわぎたくや)は運動の苦手なただのイジメの対象としてではなく、むしろ物事をその世代の中ではずっと達観して見つめている存在として描かれている。だからこその死は多くのことを周囲の人々や生徒に考えさせる事となるのだ。そして、そんな柏木卓也(かしわぎたくや)ついて、先生や生徒が語る言葉もまたいろいろ考えさせてくれる。
ブリューゲルの絵について一緒に語ったという先生はこんな風に語るのだ。
柏木卓也(かしわぎたくや)殺害の容疑をかけられたクラスの問題児大出俊次(おおいでしゅんじ)の弁護を担当した柏木和彦(かしわぎかずひこ)が、弁護をしながらもその大出俊次(おおいでしゅんじ)のこれまでの行いを批判するシーンは個人的にはこの物語の最高の場面である。
そして最後は悲しい真実につながっていく。2000ページを超える大作なだけに躊躇してしまう人もいるだろうが、読んで損をする事はない。
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