「検事の死命」柚月裕子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
米崎地検の検察官、佐方貞人(さかたさだひと)の物語。電車内での痴漢事件を扱う事になる。女性は素行が悪い一方で、容疑をかけられた男性はその地域の有権者の家の息子だった。
4編から成る短編集として構成されているが、後半2編はどちらも痴漢事件を扱った1つの物語である。また2編目の「業をおろす」は同じく佐方貞人(さかたさだと)を扱った作品「検事の本懐」の続編となっているので、本書2編目を読む前にそちらを読んでおくべきだろう。佐方(さかた)の父親の生き方を通じて、彼の信念の原点が見えてくる。
さて、本書のメインは痴漢事件の裁判であるが、女性の言動にやや素行の悪さが冤罪の印象を与える。その一方で、容疑を受けた男性の方も権力者の息子ということで真実に関係なく、裁判関係者に圧力がかかってくる。
そんななか佐方(さかた)は真実に導いていくのだが、本書でもそのぶっきらぼうな態度の裏にある信念は一貫している。本書を通じて感じたのは、正義はたった一人の無鉄砲な意思で貫き通せるものではなく、良き理解者や上司はもちろん、そのための根回しや巧妙な政治的駆け引きも必要だと言うことだ。そういう意味では佐方(さかた)の上司である筒井(つつい)の存在が大きいだろう。
最終的な結末はややあっけない印象もあるが、そこにいたる過程では期待に応えてくれた。

母さんは言ってた。自分のための嘘は絶対ついちゃいけないけど、人を助けるためなら許されるって。母さんはそうやって生きてきたんだ。

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