オススメ度 ★★★★★ 5/5
2005年バリー賞新人賞受賞作品。
1945年、10歳になったDanielは父に「本の墓場」と呼ばれる場所に連れて行かれて自分だけの一冊を選ぶように言われる。そこでであった本「The Shadow of the Wind」に取り憑かれたDanielはその著者Julián Caraxの他の本を探そうとするが、その著者の本はすべて燃やされてしまったと知る。いったい著者Julián Caraxに何があったのか。
一冊の本との出会いから始まる壮大な物語。Danielの心を「本の墓場」で出会った「The Shadow of the Wind」が掴んで話さなかったのと同じように、僕の心をこの「The Shadow of the Wind」は夢中にしてくれた。主人公Danielの友情、親子の絆、恋愛だけではなく、彼をとりこにした著者、Julián Caraxの恋愛や人間関係のもつれからうまれた壮絶な人生にまでが次第に明らかになっていく。地理的にもバルセロナからパリに広がり、当時の世界情勢も反映された見事な内容に仕上がっている。
一冊の本との出会いをきっかけに始まる物語であると同時に、Daniel自身も父とともに本屋を営む故に、読書というものの人生に与える大きさを考えさせてくれるだろう。終盤に書いてある言葉が重く響いてくる。
読む人に、その人自身の内側を見せてくれるような、全身全霊をもって取り組むような、読書の美学というのは次第に失われつつあるのだろう。すばらしい読者は月日とともに少なくなっていくのだろう。
読み終えた瞬間の喪失感のなんと大きな事か。読書の大好きな人にぜひ読んでほしい。出会えた事を感謝したくなる物語。
和訳版はこちら。