「サヴァイヴ」近藤史恵

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ロードレースに賭けて生きている人たちを描く。「サクリファイス」「エデン」に繋がる物語。
「エデン」の続編だと思って手に取ったのだが、実際には、前2作品の前後に時間的に位置する短編集となっている。謙虚なロードレーサー、白石誓(しらいしちかう)を主役に据えた物語はもちろん、「サクリファイス」で誓(ちかう)とともに若手のホープとして活躍した伊庭(いば)を中心とした物語や、すでにピークをすぎて引退を感じ始めながらもチームに貢献することを選んでロードレースにかかわり続ける赤城(あかぎ)の物語、などいずれもロードレースというものを違った視点から僕らに伝えてくれる。
今回も、ロードレースという素材を通して、そこに人生をかける人たちの、嫉妬、葛藤、駆け引き、信頼など、いろんな感情がリアルに伝わってきて、時にはロードレースという言葉の持つさわやかなイメージとかけ離れた様子さえ見えてくる。

ひとりが転倒すれば、みんなが巻き込まれる。怖い、と思ってしまえばもう終わりだ。足は止まり、勝つことはできない。冷静に考えれば怖くないはずはない。だから、頭のなかの掛け金を外す。生存への本能や、理性を吹っ飛ばす。俺たちは狂いながら、自分を壊しながら、限界を超えた速度の中へ飛び込んでいく。

シリーズを通して読んでいる人には石尾(いしお)を描いた物語が新鮮に映るのではないだろうか、「サクリファイス」で強烈な印象を残しながらも、その人柄はあまり描かれなかった石尾(いしお)。本作品では彼が期待されてチームに入り徐々に頭角を現す様子が描かれている。
近藤史恵の描くこのロードレースシリーズはよくあるスポーツ物語と違って、栄光をつかんだ勝者でもなく、すでに諦めた敗者でもなく、その間に位置するさまざまな種類の人の人生観を見せてくれるのが魅力なのだろう。スポーツ界では「実力の世界」という言葉が飛び交うが、それでも上を目指すためにはそこにある人間関係にうまく対処して生きていく必要がある。そんな部分を描いたスポーツとしては汚い一面が逆に説得力を持って見えてくるのが、このシリーズの魅力なのだろう。
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