オススメ度 ★★★★☆ 4/5
社長である日向貞則(ひなたさだのり)は、医師に余命6ヶ月と診断されたことによって、一つの計画を実行することにする。それは、自分に恨みを持つ社員梶間(かじま)に自分を殺させることだ。そして実行のために、その人物とカムフラージュのために何人かの幹部候補社員たちを熱海の保養所に集める。
なによりもその設定自体が面白いだろう。「誰かに自分を殺させる。」こんな設定はそうそうあるものではない。ひょっとしたらそんなあり得ない設定に抵抗を抱く人もいるかもしれないが、すでに何冊か石持浅海作品を読んでいる僕にとっては、これから展開される物語に対して期待感が高まるのを感じた。
本作品も石持浅海らしく保養所という狭い空間のなかで進んでいく。そこに集められた5人の幹部候補社員と、社長である日向(ひなた)。補佐役の専務。そして、その場をコントロールするために日向(ひなた)に招かれた3人である。その3人のうちの一人が、碓氷優佳(うすいゆか)なのである。読んだことある読者ならすぐに気づくことだろう。この物語は石持浅海の別の作品「扉は閉ざされたまま」と同じ世界で、その数年後を描いているのだ。そして「扉は閉ざされたまま」でも碓氷優佳(うすいゆか)が重要な役を演じた。
さて、二泊三日の研修という雰囲気でイベントは進みながらも、2人の駆け引きが進む。どうやって日向(ひなた)を合宿中に殺してなおかつ自分は警察に捕まらないように、と考える梶間(かじま)。そして、どうやって梶間(かじま)に「復讐を果たした」と思わせながら、自分を殺させて、そのうえで警察に捕まることなく会社を継いでもらおうかと考える日向(ひなた)。
とはいえ、「扉は閉ざされたまま」を読んだことのある人間には最後の展開が予想がついてしまうことだろうう。最終的に碓氷優佳(うすいゆか)がすべてを解決してしまうのだろう、と。それを知ったうえでなお先が楽しみなのは、2人の意図をどうやって碓氷優佳(うすいゆか)が上回って解決するかというその爽快感への期待ゆえなのだ。結果が見えているのにここまで楽しいのは、必ず事件が解決されるとわかっている探偵物語と似ているかもしれない。
そしてその期待は最後まで裏切られることはない。正直学ぶもののない物語のための物語と切って捨てることはできる、そんな人によって好みの分かれる作品ではあるが、それを補うだけの魅力を感じるのは、単に僕の好みが知的な女性、という理由のせいだけではきっとない。
過去の石持作品の雰囲気が好きで、それを再度味わいたくて本書を手に取った人には決して後悔させない一冊。個人的には先に「扉は閉ざされたまま」を読んでから挑戦して欲しいもの
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