オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校卒業から10年。度々企画される同窓会。元同級生たちの話題は人気女優となったキョウコ。しかし彼女は同窓会を欠席し続ける・・・。
辻村作品には特に、なにか新しい興味を喚起させるきっかけも、作品を通して学ぶことのできる政治や経済的事実もない、にもかかわらずその作品が僕を惹きつけるのはそこで描かれる人々の感情の生々しさだろう。本作品はそういった意味で辻村作品が好きな人にとっては決して期待を裏切らないものになっている。高校時代同じクラスに属していた4人の女性と1人の男性が、10年後、お互いの状況や、高校時代、過去の出来事を思い起こしながら語る。
10年経ったからこそわかる過去の自分の未熟さ。東京に出て生活している人に対する、地元に残ったものの嫉妬。誰もが表の顔と裏の顔を使い分けて生きているのだ。そして、どんな美人も、頭のいい生徒も、悩みを抱え、ほかの誰かに憧れている。相手の持つ悪意ある意図に気づきながそれでも表面的には笑顔を保ち、復讐する機会を伺い続ける…。そんな計算高さは誰しもが持っているもの、しかしそれでもそこまで明確に意識することなく、どちらかといえば無意識のレベルで考え、結論を出し、行動しに移しているのだろう。そんな無意識の醜い悪意をはっきりとした文字にして見せてしまうところが、辻村作品の個性であり、怖さなのだろう。
身に覚えがある思いも、信じられないような考え方もあるだろう。人の気持ちがわからない人は辻村作品を読むといい。
そして辻村作品ではもはやお馴染みとなっているミスディレクションは本作品でも健在。その辺はぜひ読んで楽しんで欲しい。
個人的には、これだけリアルに人の感情を描けるなら、そのままストレートに物語を描いても十分魅力ある作品に仕上がると感じるのだがどうだろう。あとがきで語られたこんな文章が、まさに定まらない自分の居場所や生き方に悩みを揺れ動く本作品の語り手たちの気持ちを表しているようだ。
【楽天ブックス】「太陽の坐る場所」