オススメ度 ★★★★☆ 4/5
過去への償いから2人の少女と暮らし始めたLeoとRaisa。しかし、ある日少女の1人Zoyaが誘拐され、犯人の要求にしたがって、一人の男を強制労働所から救い出すために、犯罪者を装ってGulag57へ向かうことになる。
前作「Child44」の続編である。この物語のキーとなる事件、そして同時にタイトルとなっている「Secret Speech」とは、1956年にニキータ・フルシチョフよって行われた「スターリン批判」を描いている。体制側の悪口を言うことするできなかったKGBに監視された社会の中で、その国のトップに近い立場の人間がその方法を否定したことによって、大きく世の中が変わっていく。そんな混乱のソビエトを描いている。
物語中盤までは、MGB時代にLeo自身が犯罪人として捕らえたLazerを救うため、自らも犯罪人を装って船に乗り、Gulag57へ進入する。見所はなんといってもSecretSpeechを聞いて、不当に犯罪者とされて働かされていた人々が蜂起し、刑務所職員を拘束して逆に裁くシーンだろう。それは、13段の階段の前に職員を立たせて、ひとつの罪を告発されるごとに一段上り12個の罪で銃殺というもの。裁かれる際の、刑務所長の言葉がまた印象的である。
実際、私はここにある階段の段よりも多くの罪を犯しただろう。しかし、階段を上ることができるのなら、降りることも許されるべきではないのか?私が救った命もあるだろう。スターリンが死んでから、私はみんなの労働時間を短くして、休憩時間を多くした。だからこそみんな健康でいられて、だからこそ刑務官たちを打ち負かすことができた。言ってみればこの反乱を可能にした一因は私にある。
そして、平行して描かれるのは、誘拐された少女Zoyaのその後である。父親を殺された心の傷を癒せぬままLeoとの生活になじめず、誘拐されたことによって自らvory(ロシアのギャングのようなものらしい)の一員としての生活に自分の居場所を見つけていく。
そして終盤は隣国ハンガリーの動乱へとつながっていく。
正直、本作品を読んで初めて「スターリン批判」や「ハンガリーの動乱」について知ることとなり、ロシア史について改めて好奇心を掻き立ててくれた。また、上でも書いた、この時代のロシアの大きな変化は、なにかどうにもならない人間の醜い本章のようなものを見せてくれたように感じる。言ってみれば、「権力を持った人間は正義ではいられない」、とか、「多数派は少数派にも公平ではいられない」といったものである。
やや、物語の展開的には物足りない部分もあったが、基本的には満足のいく作品である。