オススメ度 ★★★★☆ 4/5
名誉毀損の有罪判決を受けた、失意のジャーナリストBlomkvistの基に、すでに第一線を退いた経済界の大物、Vangerから仕事の依頼が来る。それは30年前にいなくなった当時17歳の少女の事件を解決して欲しい、というものだった。
物語の舞台はスウェーデンの田舎町である。事業家のVangerの家系ゆえに、その親類や関係者たちで居住者の多くが占められており、その日は、唯一他の場所へ行くルートとなっていた橋で交通事故が起こったため実質孤立した場所となっていた。そんな中で消えた少女。残された写真や警察の調査報告書から少しずつ真実に近づいていこうとする。
「どうして彼女は…」とか「彼女は一体何を…」というように、今は存在しない彼女の心を推し量る場面では、名作、宮部みゆきの「火車」や同じく宮部みゆきの「楽園」で味わった空気と同じものを感じさせてくれる。関係者に30年前のことをたずねて歩くうちに、それぞれが持つ思いを知っていく。
そんな Blomkvistの調査と平行して、話はタイトルにある、竜の刺青のある女Salanderの物語も進んでいく。スウェーデンを含む北欧の国々と聞くと、僕らは日本と比較してはるかに教育体制が整っているような印象を持つが、彼女はその生い立ちから、生きていくために後見人制度に頼らざるを得ない。そこで発生する問題からは、北欧といえどもまだまだ多くの改善すべき点があると感じさせてくれる。
さて、少女の失踪の秘密は、やがて聖書の中の文章と深く結びついていく。その過程で、僕の興味を強くひいたのが聖書の「外典」の話である。聖書はもともとヘブライ語で書かれているが、その原典に存在しないもの(つまり選出されなかったもの)を「外典(Apocrypha)」と呼び、カトリック、東方教会、プロテスタントでそれぞれ選定の基準が異なる。というもの。
こうやって徐々に徐々に真実が明らかになっていく物語、というのは、どうしても期待感を高めすぎてラストがそれに伴う衝撃を用意できていないことが多いのだが、本作品はその点も及第点はつけられる。
物語中で登場する多くの地名がスウェーデン語であるということから、言語にも興味を持つだろう。ただの謎解きだけでなく、ヨーロッパから、やがてはオーストラリアにまで広がるスケールと、読んでいるなかで多くの現実の問題や人々の生活に深く根付いている宗教にまで物語は広がり、非常に楽しめた。
読んでいる最中に、翻訳して出版したくなったが、先日本屋で「ドラゴン・タトゥ-の女」というタイトルで邦訳が並んでいるのを発見したので、興味がある方はそちらも手に取ってみるといいだろう。もちろん、英語で読んでも非常に読みやすい。500ページを超えるその厚さに多少躊躇するかもしれないが、読み始めれば時間も忘れて読み進められることだろう。