オススメ度 ★★★★☆ 4/5
大学病院の小児科病棟での出来事を描く。美しい歌声を持つ看護師の浜田小夜(はまださよ)の担当は目を摘出しなければならない子供たち。
次の作であるがすでに読了した「ジェネラルルージュの凱旋」とほぼ同じ時間を描く。「ジェネラルルージュの凱旋」が1階の救急救命センターを舞台としているのに対して本作品は2階の小児科を舞台としている。海堂尊のウェブサイトや、「ジェネラルルージュの凱旋」の末尾に付属している病院のマップなどを見るとさらに楽しめるだろう。
小児科病棟を舞台としているゆえに、そこの患者達は若いというだけでさまざまな症状に悩む。そこで自分の病気やそれに対する姿勢のありかたに悩む少年達の言動は本作品でもっとも印象に残る部分である。特に、牧村瑞人(まきむらみずと)は中学三年生という微妙な年齢。自分のことは自分で決められると本人は思いながらも、親の承諾なしに手術を決定することはできない。そして多くのその年代の少年達同様、周囲に弱音をはかないためにその内側が見えにくい。
そのような患者に囲まれて、少しでも患者達の幸せを願って従事する看護師、浜田小夜(はまださよ)の姿からは医療現場の多くの深刻な問題が見て取れる。
小児科病棟の患者の人手である杉山由紀(すぎやまゆき)は白血病を患っていて、自分の未来が短いことを知っている。そんな由紀(ゆき)と生きるためには両目を摘出しなければならない瑞人(みずと)の会話がなんとも強く心に響いた。
物語はそんな小児科病棟と、その関係者の間で起こった殺人事件に焦点をあてて展開する。本作品では、多くの関係者達が、ルールを守ることを重視するばかりでなく、人間関係やその事象がその後長きに渡って及ぼすであろう影響まで、広い視野で考えて対応する姿に、好感が持てた。
そんな病院関係者たちの行動をあらわすかのような次の言葉を大切にしたい。
今まで読んだ海堂尊作品とはやや趣が異なり、少し現実離れした物語。そのため最初は少し嫌悪感を抱いたが、最終的には「こんな物語もありかな」と、納得することができた。
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