オススメ度 ★★★★☆ 4/5
新米消防士の大山雄大(おおやまたけひろ)を描いた作品。
まずは雄大の仕事に対する情熱のなさにどこか共感する。「人を救うことが俺の使命だ」などと昔の英雄のような台詞を言わないどころか、消防署を見学に来る小学生たちに説明するのも面倒だし、愛想笑いを浮かべるのもつらい、と言い切ってしまうところが
火事の現場を見て「あ〜行きたくね〜」と素直に考えるところも素敵である。なぜそれが素敵に思えるのかというと、雄大(たけひろ)のそんな非情熱的な台詞の数々の裏にひそむ正義が匂いが漂ってくるからだろう。この類の人間が「根性」とか「情熱」という言葉や、かいた汗の量でその人の気持ちの大きさを計ることを嫌うのは、それが結果に直結しないことを知っているからなのだ。「いまどきの若いやつら」と一言で片付けて理解しようとしない人たちにはぜひこの物語はいいかもしれない。
さて、そんな少し現代向きな消防士の幾多の救出劇を描いた物語になるかと思いきや、最初に雄大が出動した現場で一気に話は深いテーマへと掘り下げられていく。不法滞在をする外国人たちを狙った連続放火事件を中心に展開し、入国管理局と、不法滞在者を利用する日本の企業や暴力団の関係が描かれるからだ。
「善」と「悪」。世の中の出来事はそんなわずか2つのカテゴリーに簡単に分類できる物事ばかりではない。だからこそ世の中には争いごとが耐えないのだろう。
そして後半に進むにしたがって、雄大(たけひろ)の周囲にいるつらい過去を背負って生きている人たちに物語の焦点が移っていく。自分の体を痛めつけるようにして働く元消防士の仁藤(にとう)もそんな一人である。仁藤(にとう)が雄大(たけひろ)に言ったこんな言葉が心に残る。
誰しも心の中に良心を持っている(そう僕は思いたい)。そしてそれは時に正義の心へと変わる。しかし、正義に対する異常な執着は、悲惨な過去なくしては形成され得ないということだ。そして押さないときに母親を失った、雄大(たけひろ)の親友の裕二(ゆうじ)の言葉も強烈だった。
間違いなく今年ここまで読んだ三十数冊の中で最高の作品である。
【楽天ブックス】「鎮火報」