「再生巨流」楡周平

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
大手運送会社の第一営業部に勤める吉野公啓(よしのまさひろ)は新規事業開発部の部長に昇進となった。3名しかいない部署の部長。それは実質左遷人事だった。しかし吉野(よしの)は起死回生のための巨大プロジェクトを考え始める。
この物語の中心となっている巨大プロジェクトは、文具通販をヒントに吉野(よしの)が思いつくという設定である。物語中では文具通販社の社名は架空の名前となっているが、もちろんモデルはアスクルだろう。序盤は吉野(よしの)が考えを構築するヒントとして、文具通販のビジネスモデルがわかりやすく説明されている。
そして吉野の思いついた案についても、考えを構築する過程、ビジネスパートナーである業界第3位の文具メーカーへの説明、そして上司に承認をもらうための説明、と複雑なビジネスモデルを言葉を変えて物語中で3回説明している。幅広い読者にこの物語の肝となる経済の一部分を理解してもらい、面白く読み進めてもらうための配慮なのだろう。
そして、そのビジネスモデルは、周囲の多くの人の助けを借りながら少しずつ障害を乗り越え、形作ってくる。その過程で、高齢化社会、オンラインショッピング、価格比較サイトなどのにもしっかりと話が絡んでくるあたりに著者の周到な計画が見える。
そしてまた吉野(よしの)の周囲の人間たちの成長も見所の一つだろう。部下のモチベーションを上げさせることが、部下の能力を上げる一番手っ取り早い方法なのかもしれない。
藤原伊織の「シリウスの道」、垣根涼介の「君たちに明日はない」と同じように、業種は違えど自分の仕事に誇りを持った人間を描いた作品。億の単位のお金が動く仕事など僕にとっては無縁だが、どんな仕事でも面白い否かは、携わる人次第なのかもしれないと感じた。経済に興味がない人でもきっと面白く読むことができるだろう。ひょっとしたらこの本をきっかけに経済に興味を持つ読者もいるのかもしれない。


ドライグローサリー
冷蔵を要しない食品(一般食品)、雑貨のこと。
レコメンデーション
ユーザの好みを分析し、各ユーザごとに興味のありそうな情報を選択して表示するサービス(IT用語辞典「レコメンデーション」
フィージビリティ・スタディ
新製品や新サービス、新制度に関する実行可能性や実現可能性を検証する作業のこと。
ステルス・マーケティング
消費者に宣伝と気づかれないように宣伝行為をすること。
参考サイト
@IT:勝ち組アスクル、ビジネスモデルの本質
顧客のために進化するアスクルビジネス

【楽天ブックス】「再生巨流」

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