「サウダージ」垣根涼介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「ヒートアイランド」の2年後を描いた物語。裏金強奪団のメンバーに加わることを決意したアキは、柿沢(かきざわ)、桃井(ももい)の指導の下で裏金強奪団として生きるための訓練をする。
前作「ヒートアイランド」ではストリートギャングの頭として、強くてクールなイメージで描かれてあまり弱さを見せなかったアキが、本作品では、柿沢、桃井というプロの大人たちの間で学ぶことによって、その弱さを時折見せる。特に中盤で、佐々木和子(ささきかずこ)という大人の女性との恋愛をすることによって、少しずつ世の中に対する見方が変わってくる様子が描かれる。

彼女だって生身の人間だから、それまでの人生の中で嫌な思いや屈辱的なこともいろいろと経験してきただろうと思う。アタマにくることや、情けない思いもたくさんしてきただろう。
でも彼女は、それを世の中の恨みに転嫁しない。躓(つまず)いても転んでも、目に見えている今という現実を、ごく自然に受け入れている。

そんなアキの恋愛や訓練の様子と平行して、高木耕一(たかぎこういち)という日系ブラジル人の生活も描かれる。彼は日本でもブラジルでも外国人として扱われ、そんな劣等感をばねに生きてきた。その成長過程ゆえにときおり見せる理不尽な言動と、根は優しい人間であるがゆえに恋人の売春婦DDへの気遣いが、その複雑な生い立ちを表している。この物語の見所は、そんな対照的なアキと高木耕一(たかぎこういち)の姿を交互に見せているところなのだろう。物語終盤、そんな2人を比較して、アキの恋人の和子(かずこ)が語った表現がもっとも印象的な言葉である。

人にあんまり嫉妬したこと、ないでしょ?あいつはいいなーとか、ちぇっ、こいつは羨ましいな、とか、そんな感じで?そこがたぶん違うと思うんだ。自分の状況と人を引き比べたりしないもの。そんな貧乏くさい感じ、ないもの

本作品は少し恋愛色が強い。アキの内面の悩みや葛藤が見えて、男としては非常に感情移入しやすい内容では在るが、一般的な社会には認められていない生き方を選んだ人間達を描いている以上、世の中の矛盾やそれに向けた怒りをもっと描いて欲しかったと感じた。とはいえ、「ヒートアイランド」ど同様に非常に読みやすい作品。きっとこれからも定期的に続編が刊行されるのではないか。アキの今後の成長を楽しみにしたい。


ペデストリアン
遊歩道の意味。
トレイシー・チャップマン
80年代というMTV全盛期に、正反対な音楽性(アコースティック・ギターと必要最小限の伴奏で歌うフォーク・ソング)でデビューしたシンガー。(はてなダイアリー「トレイシー・チャップマン」

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