オススメ度 ★★★★☆ 4/5
報道カメラマンの西崎勇次(にしざきゆうじ)は夜の空に火の玉を目撃し、真実を知るために墜落地点と見られる冬の山に友人の落合(おちあい)と共に入る。一方で、別居中の妻でジャーナリストの松永慶子(まつながけいこ)は米軍横田基地で起こった銃撃事件の真相を調べ始める。そして2人は大きな波に飲み込まれていく。
物語は西崎(にしざき)と慶子(けいこ)の目線を交互に切り替えながら進んでいく。その手法によって、時間を読者の読むスピードに委ねなければならない小説という物語の伝達方法においても、短い時間の中に数多くの出来事が凝縮されている様子が、見事に伝わってくる。
序盤の西崎(にしざき)のシーンは、その友人の落合(おちあい)と冬山を歩く様子に終始する。それは冬の山の恐ろしさと大自然の前の人間の無力さをしっかりと描いているように感じる。
そして、物語は、真相に近づくにつれて、北朝鮮、アメリカ、自衛隊をも絡めた大きすぎる動きが次第に輪郭をあらわにしていく。個人ではどうしようもないくらい大きな動きの前では何が正しくて何が間違っているのかさえわからなくなる気がする。国民の「知る権利」を主張する慶子(けいこ)と、国を守るために事実を隠蔽しようとする総理大臣が向かい合うシーンはこの物語の印象的なシーンの一つである。
また、西崎(にしざき)は報道カメラマンという職業ゆえに世界中で起こっている紛争を間近で見てきた。その口から発せられる言葉は重く、心に残る。
また、北朝鮮工作員から見た日本に対する言葉も印象的である
確かに日本は戦時中朝鮮に対して容易に許されるべきではないことをしたのだろう。そして、それによって彼等が日本や日本人に対して憎しみを長く抱きつづけるのも仕方の無いことなのかもしれない。多くの人は過去の過ちを忘れず、それを未来に生かすべきだと教わるだろう。しかし、過去があることによって平和が訪れないのであれば、むしろ、そんな過去を忘れることの方が解決への近道なのかもしれない。そんな、以前より僕の中にある考えを再確認させられた。
全体的には、読者を飽きさせることのない展開力が秀逸である。そして登場人物達が語った個々の使命とその近くにある葛藤の表現が非常に印象的であった。ただ、スケールを大きくしすぎたツケだろうか、最後は「アルマゲドン」や「ディープインパクト」など、多くの映画で使い古された読者の涙を誘うための安易な展開に頼るしかなかったようだ。その点だけがやや尻すぼみしてしまった感があって残念である
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