オススメ度 ★★★★★ 5/5
6年ぶり2回目の読了である。科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の主人公の馨(かおる)。父親が新種のガンウィルスに侵され発病したことで馨(かおる)は、ガンウィルスの原因を探ろうとする。
本作品は「リング」「らせん」」を読んでこそ最大限に楽しめるが。「リング」「らせん」の続編というよりも、もう一つの物語という位置づけである。
前作「らせん」に引き続き、理系的な視点で物語は進む。物語の舞台は2040年頃の未来に設定されており、技術の発展や進化論における新たな発見を前提としているようだ。コンピュータの中の仮想空間の存在に触れており、読者は自身の存在や世界の存在に疑問を感じることだろう。現実とは一体なんなのだ。風景とは一体なんなのだ。音とは一体なんなのだ。そういう感覚を与えられているだけかもしれない。自分がコンピューターの中のシミュレーションによって生まれた存在と言われてもそれを否定する証拠はこの世界で生きている限り見つからないのである。
前作「らせん」で多くの読者が感じたであろう違和感を見事に払拭してくれる作品であった。小説という伝達手段の特長を巧に利用したこの物語は、読者に強烈な驚きを与えるに違いない。そしてその手段こそが、「最高傑作」と言われながら映像化されることのない理由と言えるだろう。これだけの傑作でありながら、題材が理系に偏りすぎているため万人に受け入れられるかどうかは懸念されるところである。
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