オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第16回吉川英治文学新人賞受賞作品。
小沼真次(こぬましんじ)はクラス会の帰り道。永田町駅と赤坂見附駅の間にある階段を上がった。するとそこは三十年前だった。ワンマンだった父とその父に反発して自殺した兄の昭一(しょういち)、そして恋人のみち子。タイムスリップという奇跡が真次(しんじ)人の記憶や出来事を塗り替えていく。
父親とは子供にとって頑固でわからずやだったりするものだ。そしてそれが父親が子供に見せているほんの一つの顔だということを子供は気付かずに生きていく。ひょっとすると一生父親の他の顔を見ずに終わることが大部分なのかもしれない。物語中で真次(しんじ)は憎かった父の過去にタイムスリップし、過去の父と出会うことで、父も苦労を重ねて生き抜いてきたと理解していくのである。
そして、タイムスリップという奇跡は、真次(しんじ)と父親の間だけでなく、恋人であるちか子との間にも大きく影響し、ラストには悲しく切ない結末が用意されている。
しっかりとコンパクトにまとめられた一冊だった。
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