「繋がれた明日」真保裕一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
中道隆太(なかみちりゅうた)は19歳のときに喧嘩の弾みで人をナイフで刺して殺してしまった。そして6年後に仮釈放を迎え、その後の隆太(りゅうた)の社会への復帰の様子や人間関係などを含め、刑期を終える日までを描く。
罪を償ったはずの犯罪者の一つの生き方という、今までまったく縁のなかった世界が描かれている。そこには思っている以上に様々な障害があるのだ。「人殺し」であるがゆえに社会から誤解を受け、差別され、遺族からは恨みを買う。若干誇張があるのかもしれないが、現実に似たようなことは少なからず存在するのだろう。

死んだ者は生前におかした罪を問われず、被害者となって祀られる。残された加害者は、罪の足かせを一生引きずって歩くしかない。

「罪を償った」とする以上。「犯罪者」というだけで仕事に就けなかったり世間から奇異の目で見られることはあってはならないことなのだろう。とはいえ法律だけでは対応できないことも世の中にはたくさんあるのだ。物語中でも「人殺し」である隆太(りゅうた)と接する人々の反応は実に様々なものだ。
もし友達から「実は昔人を殺したことがあるのだ」などといわれたら、僕にはどんな反応ができるのだろう。とつい自分に置き換えて考えてしまう。しかし、そこに答えはない。少なくとも向かい合って偏見を持たずに話を聞き、しっかりと自分の意見を発することができるような人間でありたい。
物語中で隆太(りゅうた)は罪を償ってもなお、自分を犯罪者にしたきっかけを作った被害者への恨みを捨てきれずにいることで葛藤する。殺人は時として、被害者にも加害者にも「恨み」を残すのだと知った。
そして現在の日本の制度についても問題点を投げかけてくる。被害者の家族に出所日を通知するのが最良の選択なのか。無期懲役の判決を受けても20年以上勤め上げれば仮釈放されるのがいいことなのか悪いことなのか。縁のない世界だからといっていつ自分の身に降りかかるかわからない。いつまでも無関心ではいるわけには行かないようだ。
物語全体としては、隆太(りゅうた)の心情を表すシーンが非常にリアルで、読者は否応なく隆太(りゅうた)に感情移入させられていくだろう。ただ、殺人者とそれに対する偏見、差別、それゆえに起きる誤解、それらを題材に物語の大部分が展開していくため大きく心動かされるシーンは残念ながらなく、同じような展開ばかりで若干しつこい感じを受けた。この内容であればもう少しコンパクトにまとめられたように思う。もっと大きな展開があればこの厚さでもテンポ良く読み進められる作品に仕上がっていたのではないだろうか。
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「「繋がれた明日」真保裕一」への1件のフィードバック

  1. 「繋がれた明日」読みました。「発火点」と系統は同じかと思いますが、発火点よりも作品としてのできがよく、ぐっと引き寄せられながら読みました。
    真保氏といえば、緻密な取材に基づくリアリティのある作品が好きなのですが、このような心情描写中心の作品でもうまくできあがっているなぁと感心しました。
    こちらに感想や投票などがあるので、よろしければ見に来てくださいね。
    http://www.shimpo-fan.com/

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