「イリュージョン:マジシャン第2幕」松岡圭祐

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マジックだけを唯一の趣味とする少年、椎橋彬(しいばしあきら)は15才のとき、世の中にも両親にも絶望したて家を飛び出すことになった。そして椎橋(しいばし)は生きるために年齢を偽り、唯一の趣味を生かして悪事に手を染めていく。
タイトルの通り「マジシャン」の続編である。「マジシャン」で天才マジック少女として登場した里見沙希(さとみさき)は椎橋を追う舛城(ますじょう)警部補の協力者として登場するが、残念ながら見せ場はあまり多くはない。この物語の中では、椎橋(しいばし)の社会や大人への嫌悪、次第に孤独を深めることに対する心の葛藤や、それを追跡する舛城(ますじょう)の同行に多くのページが割かれている。
椎橋(しいばし)は社会から認められないことの原因を、理解力のない大人のせいだと解釈することで自身を正当化する。

世の中は矛盾だらけだ。偽善がはびこり、資本主義が人々の心をくさらせていく。それなあら、反旗を翻す人間がひとりぐらいいてもいいだろう。

彼の家庭環境が、歪んだモノの見方を作り出したことが痛ましい。

やはり大人は裏切り者だ。情がある振りをして、歩み寄ってきて手を差し伸べるそぶりをしては、その手を払いのけて子供を沼のなかにたたきこむ。そして嘲笑う。

椎橋(しいばし)の世の中に対する敵意は、世の中で葛藤を繰り返しながら生きている多くの人に、多少なりとも共感できるものではないだろうか。そして、そんな人には舛城(ますじょう)が椎橋(しいばし)言う言葉が強く胸に響くに違いない。

「世間のルールもあれば、自分のルールもある。どちらに従うかは自分で決めろ。世間には受け入れられないことでも、それを承知で曲げたくなることもある。そのとき、自分のなかにある判断を仰ぐんだよ。自分にとってのルールでだ。それが正しいかどうか。自分の胸に聞くってことだ。

この物語は、椎橋(しいばし)と真っ正面から向き合う舛城(ますじょう)の行動を通じて、読者の生き方まで考えさせられる作品に仕上がっていると感じた。


FISM
FEDERATION INTERNATIONALE DES SOCIETIES MAGIQUES(マジック協会国際連合)の略称でFISM(フィズム)と呼ぶ。3年に1度ヨーロッパで行われ、参加国30ヶ国以上、世界中のマジシャンやマジックショップが参加する世界最大のマジックコンベンション。
エルムズレイカウント
マジックのテクニックの一つ。右手に持ったパケットを1枚ずつ4枚を数え取った様に見せる テクニックだが、実際は観客に特定の位置のカードを見せない方法。
検察官送致
死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、家庭裁判所が刑事処分相当と判断した場合の措置で、送致を受けた検察官により刑事裁判手続に移行される。検察官から家庭裁判所に送致する場合と対比して、これを一般に「逆送」という。

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