オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学に入学するとともに、ちょっとしたきっかけから自転車部に入部する事となった正樹(まさき)は次第にロードレースの面白さに惹かれて行く。
著者近藤史恵がこれまでに出した作品はいずれもロードレースを扱ったもので、人間の自尊心や嫉妬などや複雑な感情を描き出して見せてくれるのでロードレースのことを良く知らなくても楽しむ事ができるだろう。過去の作品とは違って本作品は大学生のロードレースを題材にしている点である。大学で立ち上げたばかりの自転車部だが、そこに情熱を注ぐ人たちから頼まれて1年限定で参加する事になった正樹(まさき)だが、日常生活で常に重い自転車に乗っていたことと、以前に柔道をやっていたことから次第に自転車でもその才能を発揮して行く。
物語を深く面白いものにしているのは、正樹(まさき)と、そのライバルとなる同じ自転車部の桜井(さくらい)の過去である。正樹(まさき)は中学時代の柔道の練習中に、顧問の先生からの過度な指導によって親友が目の前で全身付随になるという経験をしている。その友人宅に訪れるたびに、「なぜ助けられなかったのだろう」という後悔の念に苦しむのである。そして桜井(さくらい)もまた兄弟のことを触れられるのを極度に嫌う。桜井が自転車に入れ込む理由は、兄弟にあるように見えるのだが周囲の人間もそれ以上深く踏み込むことができないでいる。2人はそんな過去と向き合いながらも、次第に正樹(まさき)が力を付けていくことで真剣勝負に発展して行くのである。
目の前にあるロードレースというものに真剣に取り組む2人の姿は十分な刺激を与えてくれた。
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