「Rejection Proof: How I Beat Fear and Became Invincible Through 100 Days of Rejection」Jia Jiang

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
拒否される恐怖心を克服するために始めた拒否セラピー、それは100日かけて毎日拒否に出会うというもの。

何年か前に著者のTedTalkと拒否セラピーのクリスピークリームの回が印象に残っていた。それは拒否されるためにクリスピークリームで作るのが難しそうなドーナツを注文するにもかかわらず、店員は拒否することもなくそのドーナツを作って出してくれる、というもの。久しぶりにその動画が見たくて検索したところ、書籍化しているということでくその前後の出来事も知りたくなり本書を読むに至った。

驚いたのはクリスピークリームの出来事は拒否セラピーを始めて間もない3回目の出来事だということ。著者にとって拒否セラピーを始めてすぐにこのような印象を変える出来事に出会ったことは幸運だったことだろう。改めて、無茶な依頼にも親切に対応したクリスピークリームの店員Jackieのように、真剣な依頼には真剣に対応する人間でありたいと思った。

僕自身はそれほど他人からの拒否に恐怖心はないが、拒否に恐怖心を抱く人の気持ちが本書を通じてよくわかった。速い話が、拒否されるのが怖い人は、拒否は自分自身の性格や能力の否定と感じるのである。一方で、僕のように拒否に恐怖心のない人は、もともと自信があるせいもあるが、拒否はたまたまタイミングが悪かったり依頼側と回答側の相互利益が成立していないだけだと捉え、自分自身の性格や能力の欠如とはほとんど関連づけないのである。

中盤以降は、拒否セラピーで有名になったせいで、著者にもさまざまな依頼が舞い込む様子が描かれる。そんななか、著者はたびたび断る側にまわることとなる。その過程で拒否される側だけでなく、拒否する側の考え方にも気づいていくのである。

When you deliver a rejection to someone, give the bad news quickly and directly. You can add the reasons afterward, if the other persons wants to listen. No one enjoys rejection, but people particularly hate big setups and "yes-buts." They don't lessen the blow––in fact, the often do quite the opposite.
誰かの依頼を断る時は、簡潔にかつ直接伝えてください。相手が理由を知りたい時に、理由は後から付け加えればいいのです。断られるのが好きな人などいませんが、人は特に、長い前置きや、「はい、でも」のような言葉を嫌います。そんなものは衝撃を和らげるどころか時にはまったく反対に作用します。

終盤では拒否セラピーの最後の挑戦として、著者は、妻の転職の手助けをする。それは妻のもっとも働きたい会社であるGoogleへの転職を成功させることである。

上で書いたように、僕自身は著者ほど拒否されることに抵抗はないが、むしろ本書では拒否する側としての姿勢に学ぶ点が多かった。何かを依頼された時に単純にNOと言って終わりにするのではなく、自分の好みや都合が合わないことを説明することで、依頼側は自分自身の否定と捉えずに済むのである。この点は早速取り入れたい思った。

ぜひ日本語化して日本にも広まってほしい内容である。

英語新表現
cuss out 罵る、罵倒する
psych out 不安にさせる、心理的に見抜く
strike a nerve 神経質になる
conform to the norm 規範に従う
sell a bridge 騙す
stick up for 支持する、応援する
break out in hives じんましんがでる
measure up to 見合う、匹敵する
off the wall 型破りな、突飛な
far cry ほど遠い

「宇宙になぜ我々が存在するのか 最新素粒子論入門」村山斉

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宇宙の観測の歴史と共に素粒子論について説明する。

ここ最近素粒子論をもう少し理解しようと思っていろんな本を漁っている中で本書に辿り着いた。素粒子論の本の中では珍しく数式がほとんどなく文章を中心とされている。

これまでいくつか素粒子論の本に触れてきて思うのは、素粒子論の理解を難しくしているのは、どこまでが確認された事実で、どこまでが研究者の中で受け入れられている仮説なのかの線引きが曖昧なことだと感じる。それに対して、本書では歴史の流れに沿って、生じた仮説とその後の観測による確認を順を追って説明してくれるので、どのようにして現在の素粒子論に辿り着いたかが比較的わかりやすかった。

相変わらず理解できないことが多いが、発見しにくいニュートリノの存在や性質。電荷に影響を与える6種類のクォーク、重さのきっかけとなるヒッグス粒子など、漠然とであるが粒子の特徴について知識を深めることができた。引き続き本書で軽く触れられていたインフレーション理論、標準理論、核融合反応について知りたいと思った。

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「メディアの闇「安倍官邸 VS. NHK森友取材全真相」」相澤冬樹

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
森友事件の取材の様子を語る。

森友事件について知りたいと思って本書を手に取った。

森友事件について詳細に説明するためには、その周辺の出来事や情報の確度を伝えるために情報を得た流れなどを説明する必要があるのは理解できる。しかし、それにしても、著者が認める優れた記者とそのエピソードの紹介に数ページ割いているにも関わらず全て仮名とするなど、脱線が多すぎる。

また、同時に著者自身の報道記者としての行動に自画自賛する雰囲気が滲み出ており、客観的な事実を知りたい側としては、その主観性の強さが本書の信頼性を損ねているように感じた。

全体的に「全真相」というには内容が薄い上に脱線が多すぎる。タイトルから森友事件に関する事実が書かれていると期待する読者は、自分と同じように期待を裏切られたと感じるだろう。内容としても残念だったし、売るために中身と一致しないタイトルを平然とつける出版社の存在を認識させられたことも含めて残念である。この出版社の本を読むのはしばらく控えたいと思った。

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「フラットランド」エドウィン・アボット・アボット

★★★★☆ 4/5
二次元の国フラットランド、三次元の国スペースランドなど異なる次元の世界を描く。

序盤は二次元の国フラットランドの様子を描いている。立体世界ではない、つまり高さのない世界なのですべての人間が線としてしか認識できず、色の濃淡でその形を判断し、その形から相手の地位を知る。

面白いのは中盤以降である。二次元の国の住人が、一次元の国ラインランドやゼロ次元の国ポイントランドの人と会話して、自分達の世界のことを伝えようとする。また、一方で二次元の国の住人が、三次元の国スペースランドからやってきた訪問者の説明に混乱する様子を描いている。次元の多い側の人間が次元の少ない側に自分達の世界の説明に四苦八苦する様子や、次元の少ない側が理解できなくて最後には怒り出す様子から、自分達の住む世界よりも多い次元の世界を理解することの難しさを感じる。

一方で、その異次元間の交流から、僕らが四次元世界を理解するための手がかりも含まれている。本書を読んだからと言って四次元より上の世界がすぐに理解できるわけではないが、考えやすくはなるだろう。他の本にはない不思議な感情を刺激する作品である。上から下は見えるが、下から上は見えない、という先日読んだ「具体と抽象」と共通するテーマを感じた。

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「移民大国アメリカ」西山隆行

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカの移民問題についてこれまでの歴史から現在の状況まで詳細に説明する。

日本も高齢者社会となり、経済を維持するためには移民の受け入れは避けられないだろう。そんななかアメリカが現在直面している移民関連の問題は、日本が近い未来に遭遇する問題と考えて知りたいと思い本書に辿り着いた。

多くの知らない事実を知ることができた。まず、移民問題といっても、不法移民、合法移民などざまざまな視点があり、多くの人が混在した視点で移民問題を語っているということ。また、二大政党の共和党、民主党の基本的な考えとして、民主党の方が移民に肯定的と捉えられ、非白人からの支持を集めているとされているが、それぞれの党の中でも移民賛成派、反対派がおり、党をまたがった議論になっているということなどである。

移民への国としての対応方針を決定する連邦政府に対して、州内住み着いて移民を社会に溶け込ませるための教育や福祉等の対応を強いられる州政府の関係も興味深い。決めるだけの連邦政府と、負担を強いられる州政府という構図になってしまうのも仕方のない話である。

中盤以降、キューバ系、メキシコ系、日本系、中国系、韓国系、ユダヤ系などの視点で、アメリカの中での影響力とロビー活動について触れている。ある国の中で特定の文化の人々が生きやすい環境を作るには、その国の中で影響力を強める必要がある。そのためにはロビー活動が欠かせないのだという。以前は強かった日本系コミュニティのロビー活動が最近は下火で、一方で韓国系や中国系が影響力を強めているのだという。

海外で同じ国の人間同士でつるむことをどこか馬鹿にした見方をすることがあり、日本人街などを敬遠する人も多いが、そこにはメリットもあるのだと再認識させられた。

改めて、アメリカの移民問題は思っている以上に複雑な問題であることがわかった。移民の国という理念があり国自体も移民によって作られた国という認識があるから、移民を受け入れるのが当然という考えも未だ根強く、そしてすでに大量の移民を受け入れてきたから、移民や不法移民の労働力に依存した社会構造ができあがっているから複雑な問題となっているのである。

引き続き、アメリカだけではなく世界の移民問題を知りたいと思った。次はフランスやドイツ、イギリスの移民問題などヨーロッパの国の実情について知りたい。

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「予想通りに不合理」ダン・アリエリー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人間は実際には世の中が思っているほど合理的に行動していないのではないか、そんな疑問を抱いた著者がさまざまな実験を通して人間の不合理さを確認していく。

人間の不合理な行動をさまざまな実験や研究結果とあわせて説明していく。本書で触れられている内容の中には聞いたことがある事象もあるので、有名な書籍だと「ファスト&スロー」や「ヤバい経済学」「影響力の武器」と似ている部分があるし、内容としても若干重なっている部分があるだろう。

それでも新鮮な内容や改めて日常生活の中で意識したいと思える発見がいくつかあった。個人的に印象的だったのが社会規範と市場規範を扱った「社会規範のコスト」の章とプラシーボ効果を扱った「価格の力」の章である。

普通にお願いすると引き受けている頼み事が、お金を払うと拒絶されたり不快感を与えることがあることは誰しも体験として知っているあろう。本書では、そんな行動を社会規範と市場規範という二つの言葉で説明している。

  • 社会規範…わたしたちの社交性や共同体の必要性と切っても切れない関係にある。たいていほのぼのとしている。
  • 市場規範…ほのぼのとしたものは何もない。賃金、価格、賃貸料、利息、費用便益など、やりとりはシビアだ。

仕事やプライベートで現在うまくいっていない関係があるのだとしたら、現在どちらの規範に基づいてやりとりしているか、関係者はそれぞれどちらの認識で受け取っているかを考えると解決への糸口が見えるかもしれない。

「価格の力」の章ではプラシーボ効果について深掘りしていく。誰もがプラシーボ効果というのは聞いたことがあるだろう。思い込みが実際に効用として現れるという現象である。驚いたのは今でも、長年効果があるとされてきた薬や治療法が実はただのプラシーボ効果だったと判明する例があるのだという。

数年前に妻の大腸癌の抗がん剤治療治療をデータを見て受けない決断をしたことがあった。データを見てわずか8%の人間にしか効果がないにもかかわらず高い費用とつらい副作用を考慮して決断したのだが、あれもひょっとしたら数年後にはただのプラシーボ効果だった判明するかもしれない。

一方で、高いお金を払っているからこそより高い確率でプラシーボ効果が発揮されるという点や、医師自身も信じているからこそ効果が出やすいという点で、医療費や薬代の高騰は今後も簡単には止まらないのだと思い知った。

前述のように似た内容の本によく出会うが、このような本にも定期的に触れる必要があるだろう。早速日常生活に活かしていきたい。

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「コロナ狂騒録」海堂尊

★★★★☆ 4/5
2020年、コロナ禍に対処する東城医大の医師たちとコロナ禍で1年の延期をしながらも東京五輪に突き進む日本の政策を描く。

コロナ黙示録」に続く、コロナ三部作の第二弾である。政府の愚策と東京五輪開催への固執のためにコロナウィルスが蔓延するなかで、引き続きコロナ患者を受け入れ続ける東城医大が次第に疲弊していく様子を描く。

コロナ患者の対応のために、自分達の命を危険に晒しながらも疲弊していく医療現場からは、そんな医療現場を支援するのではなく誰の利益にもならない五輪開催に固執する政治に失望する声が上がるのだ。如月師長の声がそんな政府の愚策の現実を端的に語っている。

世の中で一番辛いのは、ゴールの見えない我慢をすることよ。それなのに一歩外に出たら能天気な人々は居酒屋でどんちゃん騒ぎ、あの患者さんはキャバクラに行って感染したなんて聞かされると気持ちが萎える。
こんな状況下で五輪開催に固執する連中から、五輪に看護師を派遣してほしいという要請が届き、その一報で、現場で懸命に働き、ギリギリで業務に携わっていた看護師のこころが折れた。彼らは『五輪かいのち』か、という二者択一の問いを、突きつけてきたのだ。
子供の運動会はやっちゃダメなのに、なぜ大人の運動会は、やってもいいんですか。

前作の繰り返しになるが、本書は著者の一つの視点から見た出来事にすぎないのですべてを鵜呑みにするのは危険である。それでも、本書を読んで強烈に感じたのは自責の念である。自分達の無知や政治への無関心や諦めが、日本の政治の堕落をどんどん加速させているのである。無駄と思いつつも、簡単ではないと知りつつも、一人一人が声をあげなければダメなのだ。

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