「情弱すら騙せなくなったメディアの沈没」渡邉哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
昨今のメディアの凋落について過去の経緯や原因などを含めて説明している。

2021東京五輪の開会式や、2024東京都知事選など、昨今民放が世の中から大きく批判される機会が増えていている。その一つの原因はインターネットという情報発信・取得手段の普及であるが、それ以外にもさまざまな要因が絡んでいるのだろう。メディアの動きをより深く理解したくて本書にたどり着いた。

序盤ではテレビ番組制作の流れと、質の低下の原因について説明している。録画視聴が普及するに従って広告収入の低下を招く。そして、テレビ局はコストカットを強いられ、番組を外注に頼ることが多くなった結果、質の高い番組を作ることができなくなってきたのだという。つまり、現在は事件の報道に人を派遣するリソースもなければ、良い番組を制作する技術もないのである。

印象的だったのが、メディアと暴力団との関係について触れている点である。メディアと暴力団との関係は長く続いていながらも、その悪い印象を払拭するために、メディアはそこからの脱却を図ってきたのである。しかし、その過程でまたいくつかの事件が表面化しているのである。暴力団というと良いイメージを抱かない人も多いのかもしれないが、長い歴史の中で見ると、警察などの組織が未発達な時代に、暴力団は特定の地域や分野の治安維持のために存在意義を発揮していた組織である。従って、過去に暴力団と密接な関係があったというのは当然のことではあるのだが、それを改めてわかりやすく説明してくれている。

中盤以降では東京オリンピックでのロゴの盗作問題や出来事に関連する電通の力の弱体化や、NHKの問題について触れている。そして、最後にはすでに終わっているとしている新聞についても取り上げて現状やその原因に触れている。

興味深かったのが、多くの人が大歓迎すると思っていた電通の力の衰退を、著者は必ずしも良いこととは受け取っていない点である。これまで多くの関係者や関連企業が参加する国際イベントには人々が思っている以上の関係者調整が必要であり、これまでそのノウハウは電通と博報堂に集中してきたのである。著者の電通弱体化による懸念は、次第に海外の大きな資本がこれまでの電通の立ち位置を奪っていくことである。

現状のメディアに対して新たな視点をもたらしてくれた。本書で学んだ内容をふまえて今後もメディア情勢をじっくりみていきたいと思った。本書は読む前に持っていた期待にしっかり応えてくれた。

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投稿者: masatos7

都内でUI / UXデザイナー。ロゴデザイナーをしています。

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