「ローマ人の物語 迷走する帝国」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ帝国の物語の紀元三世紀の出来事を語る。73年間の間に22人も皇帝が交代する不安定な時代である。

タイトルからも伝わるようにすでにローマ帝国は全盛期を過ぎて、少しずつ衰退し始める。衰退の原因を一つに絞ることは難しいが、それらしい動きはこの時代の各所に見られる。なかでも印象的だったのはカラカラ帝の定めた法律「アントニヌス勅令」である。この法律はこれまでローマ市民と属州民と分かれていた市民を全てローマ市民とするということで、属州民にもローマ市民としての権利を与えることになるのである。この市民を平等に扱う聞こえの良い法律が少しずつローマ帝国を内面から蝕んでいくのである。

ローマ市民権は長く維持してきたその魅力を失ったのである。魅力を感じなくなれば、市民権に付随する義務感も責任感も感じなくなる。…誰でも持っているということは、誰も持っていないと同じことなのだ。

ローマ帝国の洗練された技術やシステムは驚くことばかりだが、間違いなくこれはよくないと思うことの一つが、皇帝に対する不信任を平和的に表明する制度が存在しないことである。それゆえに、未熟な皇帝が現れた時には、誰かが殺すしかないのである。この時代の混乱はまさにそんな不信任が繰り返された結果とも言えよう。

今回は普段にも増して学びが多い時代だった。

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「地の底のヤマ」西村健

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第33回(2012年)吉川英治文学新人賞受賞学品。炭鉱で栄えた福岡県の大牟田市で、警官として生きる猿渡鉄男(さるわたりてつお)の人生を描く。

大牟田市で警官の父親の元に生まれた猿渡鉄男(さるわたりてつお)は、やがて自分も警官として生きることとなる。大牟田市は炭鉱によって栄えたために、多くの人は旧労働組合組員、新燈籠組合組員、会社の人間と、炭鉱での立場で分かれており、それは小学校や中学校の子供たちのグループにまで影響を与えていた。それとあわせて昭和38年に起きた大規模な爆発事故によって障害を抱えた多くのCO2患者たちも街には多数住んでいた。

そんな街で警官として生きる猿渡鉄男(さるわたりてつお)はその職務の中で、人々の父親に対する尊敬の念を日々感じることとなる。父親は38年の爆発事故の混乱のなかでに何者かに殺害されており、その謎が鉄男(てつお)の心に何度も繰り返しやってくる。

また、鉄男(てつお)には中学生たちに友人たちと行った人には言えない過去があった。今では、その友人たちも大蔵省で働いていた理、検事になっていたりするので、過去の出来事を公に語ることはできなくなった。しかし、鉄男(てつお)は良心の呵責に苦しみ続けるのである。

大牟田市が炭鉱によって栄えた町だということも知らなかったし、昭和38年に起こった爆発事故についてもこの作品で初めて知った。石炭というエネルギーへの需要の大きさが大きな時代を作っていたことを伝えてくれる。著者はこの大牟田市で生まれ育ったというから、そんな著者の故郷の炭鉱の歴史を遺したいという強い思いが伝わってくる。

しかし、全体的に長すぎる印象は否めない。長い小説をすべて否定しているわけではない、実際、「白夜行」や「魍魎の匣」のように、その長さに必要性を感じる良い小説は存在する。しかし、本作品に関しては1400ページを超える長さが必要だったのかは疑問である。正直ページ数を3分の2程度に抑えたほうが書籍としての密度も上がるし、展開も読みやすくなるのではないかと感じた。

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「ミッドナイト・ジャーナル」本城雅人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第38回吉川英治文学新人賞受賞学品。埼玉県で女児の連れ去り未遂事件が発生した。中央新聞社の関口豪太郎(せきぐちごうたろう)は、7年前の児童誘拐殺害事件との関連を含めて、真実を誰よりも早く報道しようとする。

事件としては誘拐殺人事件という点で、昨今の小説や映画にありがちな必要以上に残虐な描写はほとんどない。むしろ物語は、その事件を報道する3人の新聞記者たちに焦点をあてている。中央新聞社のベテラン関口豪太郎(せきぐちごうたろう)、女性記者である藤瀬祐里(ふじせゆり)、松本博史(まつもとひろふみ)である。

3人は7年前の事件で共に行動し、結果的に誤報に関わった経験を持つが、今は別々の部署で働いている。それぞれが新たに女児連れ去り事件が発生したことで、過去の苦い思い出と向き合いながらもそれぞれの立場で事件の真相に近づこうとするのである。

事件の動きはそれほど多くはないが、その間、記者たちが真実を知ろうとして警察関係者との関係を築き、真実を話してもらうまでの駆け引きが面白い。新聞記者は真実を知るために、警察関係者たちとの人間関係の構築に時間をかけるのである。しかし、そんな時間をかけて構築された人間関係も、書くな、と言われたことを書いたり、逆に、嘘を教えられたりすることで壊れてしまうこともあるだ。

インターネットの存在によって早く報道することの意義が薄れながらも、そこに価値を感じて生きる記者たちの生き方を魅力的に描いている。著者の他の作品も読んでみたいと思った。

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「金持ちフリーランス 貧乏サラリーマン」 やまもとりゅうけん

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
フリーランスという生き方のメリットを語る。

基本的にいっていることは、フリーランスのメリットと、貯蓄ではなく投資をすべきという考え方である。

著者の語っていることに大きな違和感は感じないが、特に目新しいことは書いていない。気になるのは著者自身のオンラインサロンについて何度も触れている点である。そのせいで、人に知識を分け与えるための本というよりも、自分のサービスのプロモーションのための本といった印象であるし、実際そうなのだろう。昨今このような本が増えてきているので、出版社も良い本を世に送り出すという哲学を持って欲しい。著者名だけでなく出版社名に注意することも、今後良い本を見極め、中身のない本に時間を費やさないためには必要だと思った。

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「From Potter’s Field」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
セントラルパークで女性が殺害された。手口が逃亡中のシリアルキラーTemple Brooks Gaultのこれまでの犯行と酷似していることから、ニューヨークで捜査協力という形で、KayやMarinoは事件捜査に関わることとなる。

検視官シリーズの第6弾である。今回はニューヨークを舞台としてシリアルキラーGaultを追い詰めていく。KayやMarinoだけでなく、前回に引き続き、警察関係者であるKayの姪であるLucyも活躍する。

Kayは足取りの掴めないGaultの行方を追うために、殺害された女性の身元を割り出そうとする。その過程で、Gaultの両親にたどり使い、単にシリアルキラーとしてしか描かれなかったGaultの過去や家族の様子が少しずつ明らかになっていく。

終盤はニューヨークの地下鉄を中心とする追跡劇が繰り広げられるのでニューヨークの地下鉄の駅名や地理をより詳しく知りたくなった。

Bone Collectorシリーズでも言えることではあるが、小説のシリーズもので複数冊にまたがって犯人を登場させられても、前作品の展開を覚えていないことも多く物語についていけなくなってくる。もちろん著者としては他の本を買ってもらう戦略だったりマンネリ化を防ぐ方法だったりするのもわかるが、すぐに次の回を読む漫画やドラマとは違うのである。

英語慣用句
rub our nose しつこく言い続ける
make a statement 自分らしさを表現する
entertainment center 音声と映像のシステムを含む壁の装置
pull hens' teeth 無駄なことをする、暖簾に腕押し
have a full house 満員である