「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第21回(2008年)山本周五郎賞受賞作品。2008年本屋大賞受賞作品。首相がラジコンヘリによって殺害された。犯人の濡れ衣を着せられた青柳雅春(あおやぎまさはる)はそんな陰謀から友人たちの力を借りて逃れようとする。

首相の暗殺から始まり。青柳雅春(あおやぎまさはる)の過去の恋人の様子を描きながら、少しずつ青柳雅春(あおやぎまさはる)自身の逃亡する様子へ物語がシフトしていく。

ジョン・F・ケネディの暗殺についても様々な憶測が語られており、現在どこまで明らかになっているのかわからないが、真実もひょっとしたらこの物語のようなことだったのかもしれない。

主人公の逃亡劇というスタイルはすでに使い古されてはいるものの個人的には楽しめたが、物語に特に新鮮さや深みは感じなかった。また、これまでの伊坂幸太郎の作品とは少しスタイルが異なるような印象を受けた。古くからの伊坂幸太郎ファンはこの作品をどのように受け止めたのだろう。

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「Salvage the Bones」Jesmyn Ward

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2011年全米図書賞受賞作品。ミシシッピ州に住むEschと3人の兄弟はハリケーンカトリーナの上陸に備える。

母を失った家庭で父と3人の兄弟と生きる女の子Eschの視点で描く。一番上の兄Randallはバスケットに情熱を注ぎ、二番目の兄Skeetahは闘犬に入れ込む。物語はSkeetahのお気に入りの闘犬のChinaが子供を産むシーンから始まる。

弟のJuniorの面倒を見ながらもSkeetahとともに犬の世話をしながら日々を送るEschは、自分の体調の変化から、妊娠に気づくのである。弟のJuniorの誕生とともに母を失った家族の中で唯一の女性であるEschは戸惑いながらも日々を送る。1人秘密を抱えながら生きるEschからは男の中で強く生きなければいけない女性の葛藤が見えてくる。

After Mama died, Daddy said, What are you crying for? Stop crying. Crying ain't going to change anything. We never stopped crying. We just did it quieter. We hid it.
ママが死んでからパパは言った
「泣いてどうするんだ? 泣くな、泣いたって何も変わらないぞ」
でも人はなくのをやめない。静かに泣くようになるだけ。隠れて泣くようになるだけ。

そして、少しずつハリケーンカトリーナの上陸が近づいてくるのである。大きな台風を話でしか聞いたことのないEschやその兄弟は、台風に備える父をどこか冷めた目でその様子を眺めるのである。

アメリカ南部の裕福とは言えない黒人の家族の様子を見せてくれる点が新鮮である。また、ハリケーンカトリーナという出来事を当事者の目線で伝えたものに触れたのが今回初めてだったので、ニュースで触れるのとはまた違った視点で大きなハリケーンの様子を知ることができた。

英語慣用句
cuss 悪口を言う
fishing pole 釣竿
concession stand 売店
lead sinker (釣りの)おもり

「神様のビオトープ」凪良ゆう

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
死んだはずの夫が家に帰ってきたので、うる波(は)は自分以外には見えない夫と共に過ごすこととなる。

美術講師をしながら生きる未亡人うる波の物語であるが、常に夫の鹿野(かの)くんと会話しているので、未亡人という雰囲気はほとんどない。そんなうる波と鹿野くんがの周囲で起こる出来事を暑かった4つの物語を描く。

どの物語にも少し変わった愛に関するテーマがある。著者凪良ゆうは小児愛者を扱うことが多いが、本書でも1編は小児愛者を扱っており、4編のなかでもっとも考えさせられた。

許されないとして、だとしたら僕はなんの罪になりますか?
僕は心の中まで、世間の人たちに合わせなくてはいけませんか?

軽く読めるからといって読み終わったらすぐに忘れるような薄っぺらさはなく、深みを感じさせる。そんな絶妙なバランスを感じさせる作品。

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「世界最先端の研究が教える すごい心理学」内藤誼人

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
興味深い心理学調査とその結果について語る。

個人的に印象的だったのは「デキる人は軽いカバンを持つ」の話。この煽るようなタイトルが気に入らないが、身に覚えがあるのと、最近カバンが重いなと感じるので早速かばんの中身を見直したいと思った。

正直、どの心理学調査もそれなりに興味深くはあったが、読書を日常的にしている人なら聞いたことあるような話ばかりだろう。本全体としてエピソードの選択の順番も選択基準も著者のコメントも含め、まったくコンセプトが感じられない、ただの寄せ集めになってしまったのが残念である。タイトルの「すごい」も、売るためにこういうタイトルをつけることはわかっていても、内容とのギャップで失望感を増しているだけに感じた。

煽るようなタイトルと内容の薄さを考えると、この著者の本はもう読まないほうがいいなと思った。

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「アーモンド」ソン・ウォンピョン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2020年本屋大賞翻訳小説部門受賞作品。感情を感じることができない「僕」ソン・ユンジェの物語。

子供が感情表現のできない人間だと気づいたユンジェの母は、社会に溶け込むために一般的に人間がするであろう言動をユンジェに教え込む。そんな少年時代を過ごしたユンジェは、やがて高校生になってゴニという悪友や、ドラという女性と知り合うこととなる。

正直、可もなく不可もなくという印象である。感情の感じ方が乏しいというだけでサヴァン症候群というわけでもない、そんな不思議な少年を描いた作者の意図がわからない。実際に著者の周囲に存在した人をモデルに描いているのか、何か別の意図があるのかもしれない。

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「最強構図 知っていたらデザインうまくなる。」injecter-e

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
デザインを6つの構図に分けて例とともにその作成の過程を説明する。

次の6つの構図を中心にバナー、名刺、ヒーローイメージなど静的なデザインを語っている。

  • 黄金比
  • 三分割
  • 対角線
  • 日の丸
  • シンメトリー
  • トライアングル

アイデアに詰まったとき、別の角度からデザインを考えると良い解決策になることも多く、構図から入るデザインの有用性を教えてくれる。黄金比や対角線はなかなか意識しないと使わない手法なので、こうしてその手法に名前をつけるとアイデアを考えやすいだろう。

一方で本書では取り上げられていないWEBデザインなどの動的デザインにも適用できるか考えてみたいと思った。早速明日のデザインから意識していきたい。

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「The Friend」Sigrid Nunez

オススメ度 ★★★☆☆ 2/5
2018年全米図書賞受賞作品。自殺した友人が遺した犬Apolloを飼うこととなった女性の日々を描く。

物語は、自殺した友人の過去の妻と話したり、友人が遺した犬と過ごす中で彼女が考えることを書いている。彼女自身も作家であり、作家志望の人々向けにワークショップを開催しているため、小説を書くという生き方についてのさまざまな、考えが書かれている。

But remember, there is at least one book in you that cannot be written by anyone but you.
My advice is to dig deep and find it.

その一方で、さまざまな文学作品や著名な作家が引用されるので、世界の文学作品に普段からどっぷりつかっているような人にはもっと楽しめるのかもしれない。

作家という独自の視点からの面白い考えもあったが、物語としては大きな動きもなく、文体自体もかなり読みにくい。正直な感想として同じ作家の本を読みたいとは思わなかった。本書が全米図書賞受賞ということでかなり玄人受けする作品なのかもしれない。

英語慣用句
john sting 性犯罪利用者を対象とした囮捜査
sting operation 囮捜査
gang up on 団体で攻撃する

「SCRUM BOOT CAMP THE BOOK【増補改訂版】 スクラムチームではじめるアジャイル開発」西村直人、永瀬美穂、吉羽龍太郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スクラムを導入することになった組織でスクラムマスターに任命されたボクを中心に、物語形式でスクラムの導入を説明する。

ここ10年ほど僕自身3つの組織でスクラムの導入を経験してきたが、デザインタスクをどう扱うか、見積もりに時間がかかりすぎる、などなかなか実際スクラムを体験してみると教科書通りにはいかないことは多々あり、そんなよく陥りがちな状況を解決するヒントがあるのではないかと期待して本書にたどり着いた。

書いてあることの多くはスクラムを経験のある人にとっては知っていることばかりだろう。それでも異なる説明に触れると違ったものが見えてくるもの。そんな中今まで比較的疎かにしていたと感じたのがインセプションデッキである。インセプションデッキとは10の質問という形でまとめられていり、その中でも本書では

  • 我々はなぜここにいるのか?
  • エレベーターピッチ
  • やらないことリスト

の3つに触れている。何事もそうだが、細かいところが気になると全体が見えなくなるもの。定期的にミッション等、一歩離れてプロジェクト全体を確認する機会が必要である。

そのほかに、これまた身に覚えのある長くなりがちなデイリースクラムについても繰り返し触れている。

デイリースクラムは、問題解決の場ではないことに注意してください。
デイリースクラムは、全員がその目的を理解していないとうまくいかない。たとえば、デイリースクラムが誰かへの進捗報告になっている場合だ。

全体的に実践形式で説明してくれている点がありがたい。明日からぜひこの新しい視点を持って関わっているプロジェクトを見てみたいと思った。

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「ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか」熊谷徹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ドイツ在住29年の著者が、ドイツ人の質素だが幸せな生活について語る。

最近、日本をもっと良い国にするためには何をすべきなのだろう、と考えるようになり、そのヒントがあるのではないかと思い、本書にたどり着いた。

序盤はドイツ人の生活について語る。ドイツ人は年収が少ないが幸せを日本人よりも感じているという。また、質素倹約の意識が強く、世の中のサービスへの期待値もあまり高くないというのである。

決してドイツの人々の生活をすべて肯定しているわけではない。ドイツ人の生活のなかに、日本をもっと良くするためのヒントがあるだろう、という立場で語っている。

印象に残ったのは第2章のタイトルの「みんなが不便を「ちょっとだけ我慢する」社会」という言葉である。つまり、今ほど便利ではなくても人々は今の豊かな生活を送れるのではないか、ということである。具体的に挙げているのは、24時間営業の店や過剰包装である。そのほかにも、ドイツ人の休暇の取得や過ごし方などにも語っている。

確かに、僕自身も常々思っていることだが、24時間営業はなくなったとしても、人々は営業時間内に必要なものを買う習慣をつけるだけで特に問題にはならないだろう。一方で、著者が「おもてなし天国の日本」という言葉で語っているサービスの質の高さは、日本の文化として失いたくない。しかし、本書で語られるように現状が理想系ではない。日本のサービスの高さやこだわりの本質的な部分を維持した上で、サービス提供者と消費者の双方がより豊かな人生を満喫できる社会になるための最良の妥協点を探る努力は今度も必要だろう。

改めて日本の社会について考え直すきっかけとなった。

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