オススメ度 ★★★★☆ 4/5
<ミライの学校>の敷地から白骨死体が見つかった。小学校時代<ミライの学校>で過ごした経験のある弁護士の法子(のりこ)は真実を突き止めようとする。
序盤は法子(のりこ)の、小学校時代の<ミライの学校>での様子が描かれる。友達を作るのが苦手だった法子(のりこ)が、<ミライの学校>での出会いによって甘い記憶を作っていく様子が描かれる。
<ミライの学校>ではただ単に正しいことを教えるのではなく、子供たちに問いかける「問答」という時間を大切にしている。そんな<ミライの学校>の理念の中に理想の教育が見える一方で、結局社会で生きるためには社会から離れた場所で教育を行なっても意味がないという意見もあり、教育のあるべき姿についても考えさせられる。
中盤以降は、現代に戻り、娘が<ミライの学校>に関わったという両親からの依頼により法子(のりこ)は発見された白骨死体の身元を知ろうとする。
そんななか、世間では白骨肢体の発見によって<ミライの学校>自体の存在を貶める発言が溢れていく。1つの不幸な出来事や犯罪によって、組織や団体の全てが悪い捉え方をし始めるのは実際にありそうな話だと感じた。
<ミライの学校>をカルト教団のように危険な宗教団体として描く側面もあれば、そこで楽しい時を過ごした人々の意見として、優しい思い出として描く場面もあり、多くの意見を描いている点に著者の優しさを感じた。きっと、世の中で物議を醸した多くの宗教団体も、信者にとってはとても大切で暖かい場所なのだろう。改めて、世間の評判に振り回されて物事を断じるべきではないと感じた。
最近、著者辻村深月作品が少し丸くなった印象を持っているが、久しぶりに初期の作品、たとえば「冷たい校舎の時は止まる」「子どもたちは夜と遊ぶ」のような鋭さを感じた。