「Fluent forever」Gabriel Wyner

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
多言語話者であり音楽家でもある著者が、語学学習の効率的な方法を語る。

著者の学習方法は

発音→単語→文法→その他

という優先順位で行われ、発音が最初に来る点が面白い。音楽家であることから音から入るのかもしれないが、五感を多く使った方が記憶に刻まれるという点で、読み方を先に知っておかないと記憶するのに時間がかかるという点には間違いないだろう。

そして、本書で何よりもページ数を割いて説明しているのがフラッシュカードの使い方である。誰もが学生時代に単語帳は使った経験があるだろう。フラッシュカードとは単語帳のことでインターネットやアルゴリズムによって現在はさらに効率的に利用できるのである。

何よりもページ数を割いて説明しているのがフラッシュカードの使い方である。誰もが学生時代に単語帳は使った経験があるだろう。フラッシュカードとは単語帳のことでインターネットやアルゴリズムによって現在はさらに効率的に利用できるのである。

本書ではそんなフラッシュカードを利用して、効果的に学ぶコツをいくつも説明している。興味深かったのは、言語によって必要な、男性名詞、女性名詞、中性名詞をどのように覚えていくかということである。著者の方法は新しい言葉を、自分の言語に変換して覚えるのではなく、常にイメージと結びつけることと重視しており、男性名詞はそれが爆発している状態で記憶し、女性名詞は燃えている状態で覚える、など印象的なシーンにして記憶に刻み込ませるためのさまざまな工夫が見られる。必ずしも著者の進める方法に従う必要はないが、効率的に記憶するためのさまざまなヒントが詰まっている。

僕自身もう10年ほど前になるが、フラッシュカードでかつ少しずつ間隔を開けて繰り返す機能を備えたAnkiというアプリを以前使っていた。結局、単語や表現は文脈とともに覚えていかないと使えるようにはならないと悟ってやめたのだが、本書によって考え直すきっかけになった。

「魍魎の匣」京極夏彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高校生の加奈子(かなこ)が線路に飛び込んで自殺未遂を起こし、警察の木場(きば)は捜査に動き出すこととなる。目撃者の友人の頼子(よりこ)によると、犯人は黒い服の男だという。

木場は加奈子(かなこ)の母が、かつての憧れの女優であるとわかったことで真実を解明するために誰よりも熱が入る。一方、編集者の持ち込んだ占い師の調査によって、作家の関口(せきぐち)、その友人の京極堂、探偵の榎木津(えのきづ)が事件に関わっていくことになる。少女の自殺未遂事件、バラバラ殺人事件、不思議な占い師、など複数の事件が同時に起こる中で、箱と魍魎の影が見えてくる。

このシリーズは毎回そうだと思うが、京極堂の事件解決やそのために語る逸話やうんちくが面白い。なかでも本作品のタイトルにもなっている魍魎に対する説明や由来は興味深かった。正直とても理解できる範疇ではなかったが、伝説や民話など長く多くの地方をめぐって伝えられる物語は様々な変化をするのだと感じた。語り継がれるのには理由があり、「ただの昔話」と軽く扱っていいものではないのである。

本作で著者京極夏彦の作品に触れるのは「姑獲鳥の夏」に続いて2作品目だが、久しぶりに味わうその世界観は共通したものがあり、常に京極作品の根底には「世の中の常識を疑え」というようなメッセージを感じる。他の有名作品もまた読みたくなった。

【楽天ブックス】「魍魎の匣」

「点と線」松本清張

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松本清張作品はこれまで読んだことがなかったが、本作「点と線」や「ゼロの焦点」など、タイトルだけは知っているほどの名作が多々あり、もはや知っておかなければならない常識なのかもしれない、と感じ今回読むことにした。

松本清張作品はこれまで読んだことがなかったが、本作「点と線」や「ゼロの焦点」など、タイトルだけは知っているほどの名作が多々あり、もはや知っておかなければならない常識なのかもしれない、と感じ今回読むことにした。

昭和33年初版ということで、携帯電話どころか普通の電話も普及していないようで、電報が出てくる点や、旅行に飛行機を使うことに対する認識の違いや、搭乗のシステムの違いなどから、残念ながら初版当時の時代感覚で楽しむことはできない。むしろ、本書を読んで考えるのは、なぜこの作品がここまで長く読まれる有名作品となったかということである。

改めて思うのは、作品を有名にするのに、「点と線」というタイトルが大きく貢献しているということである。本書の内容の濃さは、50年以上経った今としては評価できないが、「点と線」というタイトルが適切かと聞かれると疑問である。「〇〇殺人事件」というようなタイトルをつけることもできたなかで、多少の違和感を感じながらも「点と線」というタイトルをつけた点が50年経った今でも読まれる大きな要因と言えよう。

考えてみると確かに、「世界の中心で愛を叫ぶ」や「君の膵臓を食べたい」など、内容がありきたりでもタイトルの印象深さから有名になったであろう作品がこれまでにも多々あるなと思い至り、タイトルの重要性を改めて感じた。

【楽天ブックス】「点と線」

「A Man Called Ove」Fredrik Backman

「A Man Called Ove」Fredrik Backman

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
子供もなく妻に先立たれたOveは死ぬことを考える。しかし、Oveは近所のルールが守られているかを見回るという日課があった。そんなOveの様子を描く。

Oveは常に、自らの命を絶って妻のところに行こうと考えているにも関わらず、頑固なOveに惹かれていく周囲の人々の様子をコミカルに描いていく。死にたいという人生の一大事を滑稽に描くところが面白い。

物語が進むに従って、少しずつ過去のOveの人生が描かれていく。父親の教え、妻との出会い、そして、コミュニティの友人たちとのやりなどである。どちらかというとOveの生き方は、古き頑固な生き方で現代に合わないようにも見えるが、その人生に触れる過程で、現代に生きる人たちが忘れがちな大切なことが見えてくる。

But we are always optimists when it comes to time, we think there will be time to do things with other people. And time to say things to them.
しかし時間に対しては人は楽観的である。周囲の人との時間や、伝えるべきことを伝える時間がかならず来ると思っている。
It is difficult to admit that one is wrong. Particularly when one has been wrong for a very long time.
間違っていることを認めるのは難しい。特に、間違っていた時間が長いほど難しい。

僕のの未来に対する大きな不安として、妻に先立たれたらどうやって生きていこうか、というのがある。本書はそんな、人生に希望を失いがちな晩年でも、愛しき人との思い出とともに、周囲の人と関わりながら幸せに生きる生き方を示してくれる。常に、世のため人のため、そう考えて生きていればつながりは自然と生まれていくのだろう。

和訳版はこちら。

「八月の銀の雪」伊与原新

八月の銀の雪

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
5つの物語。

どれも人間関係の悩みと気づきの物語である。同時に、そのなかで内核、伝書鳩、珪藻、風船爆弾など普段の生活ではなかなか触れることのない世界を見せてくれる。

5つの物語のなかで印象的だったのは最初の「八月の銀の雪」と最後の「十万年の西風」である。「八月の銀の雪」は昨今増え続ける東南アジアからの留学生に対する世の中の視点を浮き彫りにするとともに、彼らが、日本に希望を持ってやってきて一生懸命生きているということを優しく伝えてくれる。そして、最後の「十万年の西風」では原発とそれに関わる人の苦悩を描きつつ、戦時中の日本の兵器、風船爆弾についても触れる。

どれも人間関係に関する苦悩を描いているが、つらいだけでなく気づきを得て前向きに進むことで清々しい読後感を与えてくれる。風船爆弾や珪藻については早速追加で巻末の参考文献等読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「八月の銀の雪」

「最後の家族」村上龍

最後の家族

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
引きこもりの長男秀樹(ひでき)を抱える内山家を父、母、秀樹、妹4人の視点から語る。

55歳からのハローライフ」が思っていたよりもずっと深かったので、村上龍の代表作として本作品「最後の家族」にたどりついた。

母の昭子(あきこ)、父秀吉(ひでよし)、妹の知美(ともみ)、そして、秀樹(ひでき)のそれぞれの視点から家族の様子が描かれる。秀樹(ひでき)が引きこもりであることと、父秀吉(ひでよし)の考え方が、家族それぞれの人生に大きく影響を与えていることがわかる。

そんななか、それぞれが少しずつ会社や周囲の出来事の変化によって、変化していかなければならなくなる。その過程で人生がうまくいかない人にありがちな考え方が見えてくるのが面白い。

例えば妹の知美は、知り合いからの旅行の誘いを断るときに次のように感じる。

わたしは、これで自分で決定しなくても済むと思ってほっとしたんだ。自分で決めるというのは苦しいことなんだ。せっかく楽しみにしてたんだからもう一度考え直してよ。せっかく誘ったのにどうして断るんだよ。そう言うのを期待していた。

何一つ自分では決めたくない、周囲に流されれば自分の選択や行動に責任をとらずに、それが正当化される。そんな自分の決断に向き合うことのない人の生き方を教えてくれる。

また、母の昭子(あきこ)も、秀樹(ひでき)の引きこもりの問題と少しずつ向き合う中で変化しはじめる。

このわたしだって自分の考えを人に言うんだから、きっと他の人も言うだろう。言わないのは何か理由があるからだ。自然にそう思うようになったのかも知れない。自分の考えを人に言う。たったそれだけのことだが…それがどういうことなのか知らなかった。

そして秀樹(ひでき)も、隣人の家の女性に惹かれて少しずつ行動を起こし始める。そんなときに出会う考え方が印象的である。

救いたいという思いは、案外簡単に暴力につながります。それは、相手を、対等な人間としてみていないからです。…そういう欲求がですね、ぼくがいなければ生きていけないくせに、あいつのあの態度はなんだ、という風に変わるのは時間の問題なんですよ。

それぞれが特に珍しい生き方をしているわけでもない。それでも、ふとしたきっかけで内面的な、人生の転機を迎え、人間的に成長していくのを感じられる物語。「最後の家族」と呼ぶほど未来が暗いわけではなく、むしろ前向きになれる作品。僕自身あまりこのような受け身な生き方をしてこなかったが、受け身な人の心理が少し理解できるようになった気がする。

【楽天ブックス】「最後の家族」

「見えない誰かと」瀬尾まいこ

「見えない誰かと」瀬尾まいこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
自身の教師の経験の中で出会ってきた人々を語る。

瀬尾まいこの本を読むのはこれが初めてではなく「そして、バトンは渡された」など、いくつか印象に残っている本があるが、本書「見えない誰かを」を読むまで中学校の教師であることを知らなかった。

興味深いのは、一見おかしな人、変な人に見える人々でも、時間の経過によってその人の異なる部分を知り、良い部分を見るようになっていく著者の視点だろう。女性ならではの共感力や、先生ならではの観察力を感じる。そして、その一方で、人の記憶に長く残る人というのは、どこか一癖ある人なのだと改めて感じる。

著者のその優しい視点からも、そして、著者が挙げている癖のある人々からもたくさん学ぶところを感じる。悪いところばかりに目がいってしまう僕自身は、人との接し方を少し改めないとならないと感じた。

周囲に合わせて個性を失っていると感じる人がいるなら、そんな人も本書を読んでみるといいのかもしれない。

【楽天ブックス】「見えない誰かと」