「マネジャーの最も大切な仕事」テレサ・アマビール/スティーブン・クレイマー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
インナーワークライフを向上するためにマネジャーができることはなんなのか。様々な企業のチームから7ヶ月にわたって日誌を提出してもらい分析した結果を説明する。

インナーワークライフとは個人的職務体験としており、次の3つの要素で構成される。

  • 認識・・・職場での出来事に対する状況認識
  • 感情・・・職場での出来事に対する反応
  • モチベーション・・・その仕事への熱意

なぜインナーワークライフが組織において重要かと言うと、それがパフォーマンスに大きな影響を与えるからである。そしてモチベーションのために重要な要素として、見過ごしがちな進捗の法則を含む次の3つの要素を説明している。

  • 進捗の法則
  • 触媒ファクター
  • 栄養ファクター

七大触媒ファクターと四大栄養源を次のように説明している。

  • 明確な目標を設定する
  • 自主性を与える
  • リソースを提供する
  • 十分な時間を与える(しかし与えすぎてはいけない)
  • 仕事をサポートする
  • 問題と成功から学ぶ
  • 自由活発な意見交換

四大栄養源

  • 尊重
  • 励まし
  • 感情的サポート
  • 友好関係

このようなマネジメント関連の本は、どうしても机上の空論のようで現実感に乏しく感じてしまうのだが、本書は実際の現場からあがってきた日誌とともに紹介している(もちろん個人が特定できないように名前や地名などは変えてある)ので説得力が感じられる。

僕自身、小さな進捗のサポートできているだろうか。良い触媒ファクター、栄養ファクターを与えられているだろうか。そんなことを考えさせられ、マネジメントにうまくいかない時などに、なんども戻ってきたいと思える内容である。

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「図解・ベイズ統計「超」入門 あいまいなデータから未来を予測する技術」涌井貞美

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ベイズ統計についてわかりやすく解説する。

昨今ベイズ統計について触れる機会があり、ベイズ統計の本を読み漁っている。本書もそんななかで出会った。

本書では、トランプや天気予報を例に、乗法定理、加法定理、ベイズの定理を説明している。大まかなベイズ統計の考え方は理解できる。ベイズ更新よって、常にデータを更新できる点が実践的であるという印象を受けた。感覚的に受け入れるのが難しいのが「理由不十分の原則」であるが、ここにかんしてはそういうものとして受け入れるしかないのだろう。

また、ベイズとかベイジアンという言葉をよく見るが、ベイズ確率論やベイズ統計論などベイズという言葉を使った学問も多岐に渡ることを知った。

今まで読んだベイズ統計の本のなかでもっともわかりやすかった。とはいえ手順を手取り足とり示してもらってようやく付いて行ける程度で、まだ、理解が漠然としているので、引き続き繰り返して理解を深めたいと思った。

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「オリエント急行の殺人」アガサ・クリスティー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
世界各国からの乗客が集まるオリエント急行で殺人が起こり、偶然乗り合わせた名探偵ポアロは真実の解明を依頼される。

アガサ・クリスティーの作品を読むのは大学生の時以来20年ぶりである。本作品はそもそも物語の展開自体がすでに知ってないと話が通じない人というぐらいまで多くの場所で引用されているのを眼にする。これは読んでおかなければ、と思いようやく今回読むに至った。

1933年に書かれた作品ということで、やはり稚拙さや心情描写の浅さを感じなくはない。小さな驚きではあるが、1930年代にすでにアメリカやイスタンブールという国を超えた行き来がここまで一般的だったことに驚かされた。海外旅行はここ20年ぐらいで一般的になってきたものという認識なのだ、それはあくまでも飛行機による旅の話で、電車や船による移動、特に大陸間ではもっとずっと前から一般的だったのだろう。

感想としては、確かに予想外といった印象で、当時としては新鮮だっただろうと感じた。他にも「アクロイド殺し」も名作とよく聞くのでどこかのタイミングで読んでみたいと思った。

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「ユダヤ人大富豪の教え」本田健

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1年間アメリカに滞在した著者はそこでユダヤ人の大富豪であるゲラー氏と出会う。その後の著者の人生に大きく影響を与えたゲラー氏の教えを描く。

さまざまな場所で本書の名前を耳にしながらも読んだことがなかったので今回手に取った。

ゲラー氏は著者に、世の中で生きる人を自由人と不自由人という2つの種類に分けて説明している。自由人になるためには、目の前にあることを好きになるべきで、好きであれば、どれだけ時間を費やしても楽しく、その楽しさは人に伝染すると語っている。

またお金の原則としてつぎの5つを語っている。

  • 1.たくさん稼ぐ
  • 2.賢く使う
  • 3.がっちり守る
  • 4.投資する
  • 5.分かち合う

好きなことに時間を費やすことの力や、投資の話に特に驚きはなかった。本書を読んで改めて思ったこととしては、僕自身人脈への意識が薄いということである。本書の「多くの人に気持ちよく助けてもらう」「人脈を使いこなす」に書かれていることは少しでも実践していきたいと思った。

偉い人には、あたかも彼がえらくないかのように接しなさい。そして、えらくない人には、あたかもその人が偉い人のように接しなさい。
もし自分でできたとしても、できるだけ多くの人を巻き込んで助けてもらうことだ。そしてその人たちに感謝して喜んでもらうことが君の成功のスピードを速めるのだよ。

人脈の大切さやお金の投資の重要性はそこら中で語られているので、本書で書かれていることは特に新鮮というわけではない。例えば「夢をかなえるゾウ」なども同じようなことを言っている。しかし、このような生きる上での大事なことは、繰り返し触れてなんども思い出し自分の人生の軌道修正をするのに必要であり、そういう意味では本書もまた有益なのだと感じた。

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「Atomic Habits」James Clear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
事故による怪我から習慣の力で復活し大きな成功を築いた著者が、習慣の力とそれを作り出す考え方や方法を語る。

僕自身もさまざまなことを習慣にしていて、比較的習慣の力や習慣を作り出す能力に長けているほうだと思うのだが、さらにそれを強化したいとおもっているなか、さまざまな人が本書を進めているのを知ってたどり着いた。

基本的に本書で語っているのは、習慣に対する機会、障害、心構えに対して、良い習慣は取り組みやすく、もしくは取り組まざるを得ない方向に変更し、悪い方向はその逆、つまり、取り組みにくく、もしくは取り組むのを不可能にする、という方法である。おそらく習慣化が得意な人はすでに大部分のことをやっていることだろうが、こうして改めて言語化してみてみると、習慣化の重要な部分がはっきり見えてくる。

印象的だったのが実際の行動であるActionと準備や下調べなどのMotionを分けて次のように語っている点である。

Motion makes you feel like you're getting things done. But really, you're just preparing to get something done.
下調べや準備は行動を起こしたように感じさせる。しかし実際には準備しているだけである。

何よりもまず行動することこそ大切で、常に意識しておきたいと思った。また、そのほかにも取り入れたいなと思ったのは次の定期的に行うセルフレビューである。。著者は自分のレビューを実践することを進めているのだ。

1.What went well this year?
2.What didn't go so well this year?
3.What did I learn?

また、自分自身の信念や理想からずれていかないために次のような問いかけも実践しているという。

1.What are the core values that derive my life and work?
2.How am I living and working with integrity right now?
3.How can I set a higher standard in the future.

たしかに、人間は自分の好き嫌いよりも周囲の視線を気にして、好きでもないことに時間を費やすことが起こりうることを考えると、このように自分の本当にやりたいことかをやっているかを問いかけることは人生において重要なのだろう。

昨今習慣の本は溢れているが、本書に比べたら内容の薄い本が多く、そのような本を読むことに時間を費やすよりも、本書を一冊読んでひたすら実践する方が何倍も効果があると感じた。また、それぞれの章に読者を納得させる興味深い物語を語っている点も面白い。どれも面白く、ぜひ覚えて人に聞かせたいと思った。長続きしない人には必読の一冊である。

和訳版はこちら。

「ベイズ推定入門」大関真之

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ベイズ推定について初心者にもわかりやすく説明している。

仕事で使用するABテストでベイズ推定の考え方が用いられていることを知り、よく聞くベイズ推定を深く知りたいと思ってその一歩目として本書にたどりついた。

かなり簡単に書かれているとは言え、簡単に書くために必要以上に省略していると思われる部分が多く、逆にわかりにくく感じた。また、本書は別冊の「機械学習入門」の続編と位置付けられているようで、あくまでも機械学習のためのベイズ推定という内容で、一般的なベイズ推定の範囲とは少し異なるようにも感じた。

とりあえず、本書で出会った最尤推定、最尤法などの詳細な方法、事前分布から事後確率分布の更新方法などはもう少ししっかりと理解したいと感じた。

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「21 Lessons」ユヴァル・ノア・ハラリ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
21のテーマについて今後の展望や考え方、問題について語る。

正直テーマによって僕自身関心が強いものと弱いものがあり、それは著者についても同じで、考え方が深いと感じられるテーマもあるが、表面をなぞっただけで新鮮さも内容なことしか書いてないこともあり、テーマによって面白いとつまらないが大きく分かれるだろう。

個人的に面白かったのは「自由」と「移民」の章である。

自由の章ではアルゴリズムの発展によって世界がどのように変わっていくかを語っている。特に医療の発展が想像を超えていたので新鮮だった。確かに医療のAIが発展するなら、簡単なスキャンで現在の不調の原因や将来に不調が起こりそうな箇所を指摘して改善に努めることができ、しかもそれが世界中の医療ネットワークに共有されたなら、世界中どこにいても格安でコンビニやスタバに行くような感覚で自分の健康チェックと食べるものやすべき運動習慣を確認できるようになることだろう。

移民については、日本は現在あまり移民を受け入れておらず、「日本ももっと移民を受け入れるべきだ」と言うのは簡単だが、政策以前に「移民を受け入れる」という行為の中にもいくつか考えるべきポイントがあることに気づかされた。

著者は次の議論ポイントを挙げている。

  • 移民の受け入れは義務なのか恩恵なのか。
  • 移民した人はどの程度までその国の文化に同化すべきなのか。
  • 移民した人がその国の正規の国民とみなされるまでどれくらいの時間の経過が必要なのか。

答えのない問題を突きつけられた気がする。今度ぜひ移民の話になったらこんな疑問をぶつけてみたいと思った。

著者はユダヤ人とのことだが、ユダヤ教の選民思想やイスラエルでの体験についても語っている点が面白い。ひょっとしたら他の作品でもっと多く語っているのかもしれない。

新たな視点をもたらしてくれることは間違いないのだが、すべての章が安定して面白いわけではなく、ついていきにくいと感じる箇所もいくつかあり、全体的に疲れる読書だった。この著者の他の作品も有名なので読んでみたいとは思うが、きっと同じように疲れる本で、エネルギーがないときに読むのはちょっとつらいかもしれない。時間をおいてまた挑戦したいと思った。

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「Getting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving In」Roger Fisher

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世の中には交渉が溢れている。そんな交渉をうまく進めるための考え方を語る。

交渉が重要だと気付いたのは30代になってからである。転職時の給料の交渉などはうまくいくかいかないかでその後の数年間の自分の人生に大きく影響を与えるし、毎日の同僚との会話で締め切りや誰が担当を決めるのも交渉である。以前、オンラインコースで交渉を学んでその重要性を知り、さらに深めたいと思い本書にたどり着いた。

本書の面白いところは、よくある交渉術のような、前もってポジションを決めて臨む交渉(例えば「私は5000円以上のお金を絶対払わない」のように)を否定しており、むしろ相手と自分自身の相互に利益をもたらす着地点を見つけることを推奨している。そして、そのために踏むべきステップと、そのために陥りやすい罠と回避方法を例を交えて細かく説明している。

本書の基本的な考えは次のものである。

Seperate the People from the Problem
人と問題を別に考える
Focus on Interests, Not Positions
自分の立ち位置に固執しないで利益を考える
Invent Options for Mutual Gain
相互の利益になる新たな選択肢を考える
Insist on Using Objective Criteria
客観的な指標を用いることを主張する

本書の核となる考え方は前半に詰まっており、後半は、交渉相手が相互利益に向かう交渉に乗ってこなかった場合などの進め方など、うまく進まない場合の対処方法について書いている。こちらは問題にぶつかったときにさらに読み返すべきだろう。

以前に受けた交渉術コースはどちらかというとポジションにこだわっており、人間関係を軽視しがちな印象を受けたので、本書の両者の利益を考える姿勢は新鮮で、取り組みやすいと感じた。僕自身すでにやっている部分も多いが、こうして言語化して整理して並べてもらうとさらに考えやすく受け入れやすい。なかでも、客観的な指標を用いるという考え方は考えたこともなかったので次回から心がけてみたいと思った。

「自転しながら公転する」山本文緒

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
茨城で実家暮らしをしながらモールのアパレルスタッフとして働く三十代の与野都(よのみやこ)の悩みながら生きていく様子を描く。

一時期は都内で最先端のアパレルショップで店長として働いていたものの、家庭の都合から実家に戻って、地元のモールで働く都(みやこ)は、家庭に縛られて結婚も独立もできない日々を送っている。

そんななか、物語は、都(みやこ)がモールの中の回転寿司で働く貫一と出会うことで動き出す。このままよくある恋愛小説家の流れになるかと思いきや、勘一の中卒という経歴や収入の少なさに結婚へ踏み切れない都(みやこ)は思い悩むのである。

恋愛だけではなく現実も考えなければならない、現実に起こりがちなリアルな恋愛模様を描いているように感じた。希望に満ちていた20代が終わり、人生の可能性が狭まっていく30代を描いている点で、共感する部分があるのではないだろうか。また、一方で全体的に自分のやりたいことや人生で重要なものを自分自身でわかっていない都(みやこ)にイライラしながら読み進める人が多いのではないかとも感じた。

一般の恋愛小説なら登場人物の感情の表面を軽くなぞって終わるところを、一歩踏み込んで、人間の嫌な感情や葛藤まで見せてくれる点が、本書を他の恋愛小説よりも際立たせている点だろう。個人的には久しぶりに恋愛小説で楽しませてもらったという印象である。

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「瞬読」山中恵美子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
本を早く読む方法を語る。

僕自身本を一般の人よりは早く読む方ではあるが、最近この時間を少しでも内容の濃いものにしたいと考え、速読に関する本や、くだらない本を選ばないようにするなど試みている。そんななか本書に出会った。

悲しいことに、前半部分は本を読むことの大切さと、この本によってどれだけ本が早く読めるようなことを長々と書いており、なかなかその「瞬読」のないように入らない。よくある本の厚みを増やすためのページという印象であり、前半はまさに「瞬読」技術のない人でも「瞬読」すべきパートなのだろう。

本書のエッセンスは第2章の、わずか30ページほどに含まれていることが全てで次の3つに集約される。

  • 読むのではなく見る
  • 見たものをイメージに変換する
  • 手書きでアウトプットをする

本書の表紙に書いているように、「1冊3分で読めて99%忘れない」というのはかなり誇張な気がするが、記憶に止めるためには読むだけではなくアウトプットをすべきとい点や、一字一句すべてを読まなくても、(音読などしなくても)知っていることなら、何を言いたいかがわかる、という点もまさにその通りと感じた。

一般の人と比べて読む速度が遅いと感じている人にはヒントになるのかもしれない。僕自身もこのようなデジタルのアウトプットだけでなく手書きのアウトプットも考えるべきなのかもしれない。

【楽天ブックス】「瞬読」

「Project Hail Mary」Andy Weir

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
記憶を失った状態で、宇宙船のなかで目を覚ました彼は、少しずつ記憶を取り戻し、自分が地球を救うために宇宙を旅していることを思い出す。そんな宇宙飛行士の地球を救う物語を描く。

ビル・ゲイツやバラック・オバマなどの著名人が本書を2021年のおすすめとして挙げていたことから、「これは読まなくては」と手に取った。

物語は宇宙船のなかで記憶を取り戻しながら自らの使命を悟り奮闘する男Graceと、彼の回復した記憶による過去の様子が交互に描かれる。

過去では、太陽の光を弱める物質が認められ太陽の光が少しずつ弱まっているため、30年以内に人類の半分が死滅するだろうという予想が立てられる。そんななか、宇宙を調べると、その物質は太陽系以外も汚染しているが、唯一汚染されてない宇宙があり、その原因を調べて地球に汚染されないための情報を送るというのが、宇宙船のミッションなのである。

記憶を失った状態で物語が始まるという少々使い古された展開によって、期待値が最初はしぼんでしまったが、物語が進むごとに面白さが増しどんどん引き込まれていった。物語の展開自体はよくあるSFであることに変わりはないのだが、面白いのは、登場人物たちの試行錯誤や行動をかなり科学的に描いているという点である。もちろんどこまで信憑性があるかどうかは実際に宇宙について研究している人でもない限り明言できないが、少なくとも古臭い、重力や相対性理論や宇宙に空気がないことを無視したSFではないということだ。

そのため、宇宙船を作るために試行錯誤する様子や、言葉の通じない、未知の生物とコミュニケーションを図る様子など非常に興味深い。また、人工重力や相対性理論についても描かれており改めて勉強したくなった。

今までにないSF小説。マット・デイモン主演で映画になった「オデッセイ」も同じ著者の小説を基にしているということで、そちらもぜひ読んでみたいと思った。

和訳版はこちら。