「最高のランニングのための科学 ケガしない走り方、歩き方」マーク・ククゼラ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人生におけるランニングの重要性を説く著者が、長くランニングを続けるために必要なことを語る。

最近、改めて走るという行為を再確認しており、ランニング関連の書籍を読み漁るなか本書に出会った。

本書はマラソンのための本ではなく、ランニングのための本である。したがって、マラソンに役にたつことはあるが、マラソンのトレーニングに焦点を書いている本ではない。むしろ、人生において運動をすることの重要性を説いておりそのもっとも簡単な運動として、歩くこと、走ることを勧めているだけである。

なにより、昨今座ったまま仕事をすることが多くなったせいで、人間は体を動かすことが少なくなり、人間はかつてないほど老いていると主張する。言い換えるなら、平均寿命は伸びていても平均活動寿命は短くなっているのだというのである。そして、そんな平均活動時妙を伸ばすためにランニングを進めているのである。

長くランニングを続けるために、怪我の予防や回復など、さまざまな面で語っているが、なかでももっとも印象的だったのは食事についてだろう。砂糖が健康に良くない話はよく聞くはなしであるが、本書では炭水化物(精製炭水化物と呼んでいる)も糖尿病への発生につながるとして、炭水化物耐性、インスリン感受性の高い体づくりを推奨している。

本書を呼んで、長く健康な人生を楽しむためには食事を見直していかないとならないと感じた。若い時に大丈夫だったとはいえ、年齢を重ねるごとに大丈夫ではなくなっていくのである。

また、足本来の機能を活かして走ることを推奨しており、ベアフットラニンニングやミニマリストシューズに触れている。このあたりは「Born to Run」にも書かれていたことで、少しずつ考えてみたいと思った。

ランニングを中心として、運動や食事について新たな視点をもたらしてくれる一冊である

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「1兆ドルコーチ」エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スティーブ・ジョブズやラリーペイジなど、AppleやGoogleの創業者や幹部にコーチングをすることで大きな影響を与えたビル・キャンベルのコーチングについて語る。

GoogleやFacebook、アップルなどシリコンバレーの成功物語を読んだことがある人ならビル・キャンベルという名前を耳にしたことがあるのではないだろうか。しかし、名前は聞いたことがあるが何をやっている人かどうかはわからない、というのが正直なところだろう。

そもそもAppleやGoogleの創業者や幹部たちといえば一般的には天才と呼ばれる人達。そのような人たちにコーチングが必要なのだろうか。そしてどのような人間ならばそこまで多くの人から感謝されるコーチとなれるのか。

本書でビルの周囲の人の言葉から、その率直な物言いと情熱的な振る舞いが見えてくる。また、ビル自身自分がコーチングする人の選別をしっかり行っていたことや、自分自身のなかに人生の達成したいものの尺度があったことが見えてくる。

ビル、肩書きがあれば誰でもマネジャーになれるけど、リーダーをつくるのは部下よ
利口ぶるやつはコーチできない

ビルはコーチャブルな資質として次の4つが挙げられている

  • 正直さ
  • 謙虚さ
  • あきらめずに努力を厭わない姿勢
  • つねに学ぼうとする意欲

僕自身人の役に立ちたいという思いを持ちながらも、1人の人間が影響を与えられる人の数というのは、妻や家族など、せいぜい10人程度だと考えていた。そのため、本書でビルが数百人という人たちに影響を与えたことを知って驚かされ、もっとできることがあるのではないかと考えるきっかけになった。

何よりも本書で感じたのは率直さの重要性である。結局、人を傷つけることを恐れて、遠回しな物言いばかり繰り返しても深い人間関係は築けないし、人の人生に影響を与えることもできないのだと改めて感じた。

いきなりすべてを真似することはできないが、少なくとも同じ会社の人々の家族構成ぐらいは覚えていこうと思った。

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「昨日がなければ明日もない」宮部みゆき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
探偵杉村三郎(すぎむらさぶろう)が行う3つの調査とそこで出会う人々を描く。

杉村三郎(すぎむらさぶろう)シリーズの第4弾である。本書では杉村三郎(すぎむらさぶろう)が探偵として扱った3つの物語を扱っている。結婚した娘に会うことを許されない母親、キャンセルされた結婚式、子供を理由にお金をむしりとろうとする母親など、そのどれもが世の中を騒がすほど大きな事件ではなく、どんな街にも起こりそうな出来事を扱っている点が面白い。

そして、物語全体の軽い展開の中に、人間の持つ本質的な醜さや強さを描いている点が宮部みゆきらしいと言えるだろう。

残念なのは他の著者の作品ほど深みを感じないため、続編を読む頃には前作の内容を忘れているということだ。それでも、深く考えすぎないで楽しめるところがこのシリーズのいいところかもしれない。

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「幸福の意外な正体」ダニエル・ネトル

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
幸福について研究した著者がその結果と結論を語る。

タイトルからもっと自己啓発的な本を想像していたが、思った以上に科学的なアプローチをしている。そのためやや小難しく読みにくい。

面白かったのは人間の6つの感情、恐れ、悲しみ、嫌悪、怒り驚き、喜びのうちプラスの感情は喜びの一つだけだという点である。著者の理解によると喜びの状態においては何も変える必要がないのに対して、その他の状態では現状を変えて改善する必要があるためだという。また、喜びは一瞬で飽きてしまうために幸せであり続けることが難しい、というのも興味深い指摘である。

結局のところ、幸せになるためのさまざまな要素を検証しているだけにすぎず、具体的に幸せになる方法をはっきりと語ってない点が残念である。唯一の幸せになるしさは次の言葉だろう。

あなた自身が何か、価値がある、挑戦しがいがある、大切である、と思えるものに意識を集中させていればいいのです。

間違えやすい幸せな方向についての指摘は知っているだけでも有用だが、もう少し面白く、もう少し人生に有用な形でかけたのではないだろうか、と感じてしまった。

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「手ぶらで生きる。見栄と財布を捨てて、自由になる50の方法」ミニマリストしぶ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ミニマリストの著者がその生き方や考え方を語る。

僕自身も、捨てられるものはさっさと捨てたいし、広いよりも最低限の広さがあればむしろ狭い部屋に住みたい、と考えるミニマリスト思考の持ち主である。今回、何かしら人生をさらに豊かにするヒントに出会えればと思い本書にたどり着いた。

すでにミニマリストという言葉が一般的に世の中で通じるようになって数年が経ち、また断捨離も流行っていることから、その考え方はそれほど目新しいものはないだろう。すでに少しでも実践したり、実践してないまでも興味を持って調べたことのある人にとっては、本書で書いてあることも、特に驚きを与えるようなことではないだろう。例えば次のような内容である。

  • 冷蔵庫は持たない
  • テレビは持たない
  • 狭い家に引っ越す
  • 毎日同じ服を着る
  • 財布は持たない
  • 「限定物」ではなく「定番物」を買う
  • 「レンタル」「シェア」を使いこなす
  • 「出口戦略」を考えて増やす
  • 時間を生み出すツールに投資する

僕にとっても、新しい考え方に出会うというよりも、もともと持っていた考えを改めて再確認する機会となった。唯一「こんな考え方もあるのか」と思った点を上げるなら次の2つだろう。

「一日一食」で生活する

たしかに、食事に関して、僕らは三食食べるべきという考え方に固執しすぎているのかもしれない。1人のときなど二食生活や一食生活を取り入れてみたいと思った。

物が人生を豊かにする、という思考から離れられない人にとっては何かしら本書から学ぶ部分があるだろう。

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「熱源」川越宗一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第162回直木三十五賞受賞作品。樺太で生きるアイヌの人々と、その生活に魅了されたポーランド人を描く。

1800年代後半から日本やロシアなどの大国が戦争へと突き進む中、樺太で生きるアイヌの人々を描く。特に、アイヌの男性ヤヨマネクフとブロニスワフ・ピウスツキという、リトアニア生まれのロシア人を中心に物語が進む。 ヤヨマネクフは日本とロシアの領土問題で所属する国が変わる中、アイヌの文化や存在価値を認めてもらおうと苦悩する中で、ロシアや日本を行き来する。一方ブロニスワフは、リトアニアという地域に生まれ、自らの祖国をロシアという大国に取り込まれ、母国語を強制的に奪われたことで、まさに同じような境遇に向き合っているアイヌの人々に惹かれていくのである。

アイヌを題材に扱った作品だと、漫画の「ゴールデンカムイ」が最近では有名である。「ゴールデンカムイ」はどちらかというと、物語のなかの登場人物として、アイヌの優れた文化などを紹介しているが、本書はむしろ日本とロシアの領土問題に翻弄され、文明化が進む世界のなかでアイヌの文化をどのように存続させていくかの苦悩を中心に描かれている。

知識としてアイヌという民族の存在は知っていたが、北海道に住む民族という印象しかこれまで持ってなかった。もちろんロシアと日本という領土の問題と絡めてその存在を考えてみたことがなかったので、本書では初めてそのつらい歴史に目を向けさせてもらった、また、熊送りや女性が口に施す刺青など、これまで知らなかったアイヌの文化を知ることができた。

狩猟最終民族としてのアイヌの文化を維持することはつまり、文明化の流れにのらないこと、それは世界から孤立、民族の衰退である。そんな文化の維持と民族の存続という両立ならぬアイヌの葛藤が物語から感じられるのである。

しかし、その一方でこんなことも感じた。交通手段や情報の障壁が少しずつなか、人類の歴史において消えてった民族や言語、文化は数知れず、それに抵抗して自分たちの民族を残そうとすることはそこまで重要なのだろうか。もちろん今日明日、急に日本がなくなる、日本語を話すのは禁止と言われれば大きな抵抗はあるだろうが、100年200年単位で民族や文化が消滅したり他の民族と混ざり合ったりして個性が失われていくのは、人類の発展の中で避けられないことなのではないだろうか。

アイヌの歴史や苦悩だけでなく、文化や民族のありかたに目を向けさせてくれた。日本からロシアまで壮大なスケールと詳細に調べたであろう歴史を見事に融合したすばらしい物語。

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「A/B Testing:The Most Powerful Way to Turn Clicks Into Customers」Pete Koomen, Dan Siroker

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ABテストプラットフォームの先駆者であるOptimizelyのCEOである著者が、そのサービスやクライアントを通じて得られたABテストの知見を語る。

最近我が社でもまたABテスト熱が再燃しており、少しでも組織として意味のあるABテストができるようにと思い本書にたどり着いた。

ABテストを専門的に取り上げた書籍を読むのは本書で3冊目になるが、ABテストのプラットフォーマーとしての視点で書かれたものに触れたのは本書が初めてである。 序盤はオバマ大統領の大統領選におけるABテストの貢献の大きさなど、さまざまな形のABテストによる改善例を示している。

そんななか本書ではABテストの流れを次の5つのステップとしている。

1.Define Success
2.Identify bottlenecks
3.Construct a hypothesis
4.Prioritize
5.Test

1の成功の定義は必ず言われることで(とはいえ抜けがち)特に新しくはないが、2のIdentify bottlenecksという考え方は他のABテスト関連の書籍にはなかったので新鮮に感じた。向上などの生産効率を上げるためにはボトルネックという考え方は一般的だが、より良いサイト制作においても、目的のコンバージョンに対して、トラフィックがどこで止まっているのか、そんなボトルネックにもっと意識を向けるべきなのだろう。

またMicroconversionとMacroconversionというように、コンバージョンを二つに分けて考えている点も興味深い。3のConstruct a hypothesisでは、単純に思う仮説ではなく、ユザーインタビューやご意見フォーム、フォーカスグループなどを通じてより精度の高い仮説を挙げることを推奨している。この辺はかけられる工数によって実践していきたいと思った。

中盤以降では、実際に組織にABテストの文化を組織に浸透させる方法について、外部のサービスを利用する方法や新たにエンジニアを雇って組織内にテストチームを作る方法など、それぞれのメリットやデメリットを書いている。

全体のなかで特に印象的だったのは次の言葉。

A question worth asking about every test is, "Would you be happy showing the winning variation to all of your traffic" 
「勝ったテストパターンをすべてのユーザーに喜んで見せられますか?」と尋ねてみるべきです。

つまり、結果が良かったテストパターンが必ずしも正解というわけではなく、例えばユーザーがクリックするボタンが絶対的に正しければ、世の中のボタンはすべて女性の裸になってしまうということである。組織として、ブランドとして、そのテストパターンを世の中に自信をもって出せるのか。それを考えずに思いつくままテストをしてしまうと、ただ時間や労力の無駄になりかねないのである。

また次の冗談も、いきすぎたABテスト主義を抑制するために使えることだろう。

 There's a joke among A/B testing veterans that almost any variation of a button loses to a button that says "Free Beer." ABテスト業界にはこんな冗談があります。どんなボタンバリエーションも「無料ビール」というボタンには叶わないと。 

ABテストの方法にさらなる理解を与えてくれる内容である。本書の上の言葉に出会って、早速醜い見た目、誤解を招きかねないABテストパターンを実践している自社のABテストを改善したくなった。

「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2021年本屋大賞作品。過去から逃れてキナコは大分の田舎町で1人で生きていくことを決める。

キナコは1人で生きていくと決意しながらも、口のきけない男の子と出会い、その恵まれない家庭環境に過去の自分を重ね合わせ、その子を救おうと行動を始める。 そして、そんな現在の様子と並行して、キナコの過去が明らかになっていく。うまくいかない家族との関係、そしてアンさんと呼ぶ人との出会いよってそんな家族のしがらみから救われたことなどがわかる。

最近、日本で評価される本の多くが、家族や恋人など狭い人間関係と小さな地域のなかで起きる出来事を描いているような印象を持っており、本作品も似たような印象を受けた。もちろん、人の幸せは、身近な人との関係による部分が大きいし、人生で起きる大きな出来事よりも、それぞれの人間が物事をどう受け止めるかが重要で、そういう物語が評価されるのもわからなくもないが、最近はちょっと似通いすぎていて新鮮さをあまり感じなかった。

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「All That Remains」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
4組の男女のカップルが失踪し白骨死体で発見された。そして五組目のカップルが失踪する。

FBIの検死官Kay Scarpettaの物語の第3弾である。白骨死体として発見されたこれまでの被害者はいずれも靴を履いていなかったこと、トランプのカードが現場に残されていたことから同一犯とされており、失踪した五組目のカップルの女性は、権力者の娘であったことから、大きく報じられてFBIやCIAの上層部が絡んだ政治的な局面を強くしていくのである。

そして、そんななか、ワシントンから報道記者でありかつてはKayの天敵でありながらも、妹の殺害を機に友人となったAbbyも事件を探りやってくる。Abbyの話によると、事件を調べ始めてから、Abbyの周囲でも少しずつ不穏な動きが感じられるという。CIAやFBIは何を隠しているのかも犯人追跡と並行して大きな謎となっていく。

今回は現場にトランプが残されていたことから、スペードのエースに関するベトナム戦争における意味などの興味深い話に触れることができた。

相変わらず物語が描かれたのがすでに20年以上前とは思えないほど色褪せない物語で、今読んでも十分にその緊迫感が感じられる。実際、検死官である人物がここまで現場に足を運ぶものなのだろうか、という疑問は感じなくもないが、その辺は物語の都合上多少脚色があるのかもしれない。アメリカという国の司法やCIA、FBIなどの権力の構造や、地域や州の管轄についても好奇心を刺激してくれる点もありがたく、存分に楽しませてもらった。