「The Sentence is Death」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2021年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。離婚調停を専門とする弁護士Richard Pryceが殺され、殺人現場には182の文字が描かれていた。今回も前回と同様にHawthorneの事件解決を本にするためにAnthonyは事件に関わっていく。

前作「The Word is Murder」の続編で、物語としてもHawthorneとAnthonyのコンビで事件の真相に近づいていくのである。調べるうちに殺害されたRichardは数年前に洞窟探検の最中に友人Chalieを亡くしているという。また、Richardの離婚裁判によって被害を被ったAkira Annoという作家に脅迫されているのをレストランで多数の人が目的している。犯人はAkira Annoなのか、それとも洞窟探検で亡くなった友人の関係者の復讐なのか。

そんななか、警察のGrunshawはHawthorneに犯人逮捕の先を超されまいと、Hawthorneの動きを逐一報告するようにAnthonyを脅迫する。また、同時に、本を書くためには事件の経緯だけでなく主人公となるべくHawthorneの人柄を知らなければならないというAnthonyの努力は、今回も続いていくのである。

Anthony Horowitz作品は本作品で3作目だが、やはり「Magpie Murder」の印象が強くて、本作も物足りなさを感じてしまった。

「罪の声」塩田武士

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
服屋を経営する曽根俊也(そねとしや)は、ある日父親の遺品のなかに不思議なテープを発見する、それは自分の子供の時の声が録音されたテープであり、30年前に世の中を騒がした犯罪に使われてものだった。テープの謎を解明するために父親の過去を調べ始める。

物語は2人の視点を交互に行き来する。一人は父親の遺品のなかに不思議なテープを発見した曽根俊也(そねとしや)、そしてもう一人は、上司から30年前の未解決事件を取材するように命じられた阿久津英士(あくつえいじ)である。本書では「ギン萬事件」という30年前の未解決事件の真相に近づこうとする2人を描いているが、実際の題材はグリコ森永事件である。

曽根俊也(そねとしや)は父の知り合いの協力をあおぎ少しずつ真相に近づくいっぽいで、阿久津英士(あくつえいじ)は各方面の関係者に取材していく。当時は口が硬かった人も、30年経って事件が時効を迎えたために、新たな真実が見えてくる。

本書では犯人の描写まで描かれておりその点はもちろんフィクションであるが、それに至る経緯は実際のグリコ森永事件に忠実に描いている。僕自身小学生でうっすらとした記憶しかないグリコ森永事件に改めて関心を抱かせてくれた。小説というフィクションでありながらも、一つの時代を作った大きな出来事を新たな視点で教えてくれるまさに優れたフィクションと言える。

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「さくら」西加奈子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
父親が久しぶりに家に帰ってくるということで、薫(かおる)は実家に帰り飼い犬のさくらや妹のミキと再会する。そして、20歳で亡くなった兄や、破天荒なミキの行動のことを思い出す。

学校のヒーローだった兄と、美人だが凶暴な妹の出来事、そして過去の恋人たちとのエピソードなどを順を追って語っていく。世の中なんでも思い通りになりそうな幼い頃の思いと、それがだんだん少しずつ、勢いが失われて平凡な人生に飲み込まれていく様子を独特なテンポで語る。

本書で西加奈子の著作は二作目であるが、本作品も直木賞受賞作品である「サラバ」と似たような独特な雰囲気を持つ。もし著者の作品がみんなこの雰囲気であればしばらく読まなくてもいいかなと思った。悪い作品ではないが何冊も読むものでもないかもしれない。

【楽天ブックス】「さくら」

「キラキラ共和国」小川糸

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
鎌倉で文具店を営みながら、代書を行うポッポちゃんのその後の様子を描く。

ツバキ文具店」の続編である。知らずに手に取ったので意図せずあの穏やかな鎌倉の世界観に触れることとなった。そして、なんと序盤からポッポちゃんが子持ちの男性ミツローさんと結婚したことが明らかになる。ポッポちゃんは代筆屋、文房具屋を営みながら、また、お相手のミツローさんは喫茶店を営みながら、少しずつ一つの家に移り住み、書類上だけでなく見た目においても、家族としての生活へ移っていく、その過程を本書では描いている。

興味深いのはミツローさんは前の奥さんと死別していると言う点である。そのためミツローさんやその家族のなかでも前妻の話題を出さないように気遣ったりする面があり、そんな気遣いがポッポちゃんを苦しめるのである。また、そんななか、ポッポちゃんの母親を名乗る人まで現れ、ポッポちゃんの悩みが増えていくのである。

相変わらず代筆への依頼は対応しており、そのそれぞれに一生懸命考えて作った手紙は前作同様魅力的である。ただ、今回はポッポちゃんの結婚生活への悩みや葛藤も多々含まれており、どちらかというとそれはよくある恋愛物語の一つという感じで、代書という仕事の面白さや難しさを焦点にあてた前作のほうが個性を感じた。

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「死ぬ前の5つの後悔」ブロニー・ウェア

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
多くの人の人生の最期に立ち会った経験を持つ著者が、人々が死の前に感じる後悔について語る。

5つの後悔とあるが、本書で扱っているのは5人の死だけでなく、死を目の前にした人々の様子や家族の様子も合わせて伝えており、その後悔をまとめるとだいたい5つのパターンに収まるということである。著者ははつぎの5つをよくある後悔としている。

  • 1.自分に正直な人生を生きればよかった
  • 2.働きすぎなければよかった
  • 3.思い切って自分の気持ちを伝えればよかった
  • 4.友人と連絡を取り続ければよかった
  • 5.幸せをあきらめなければよかった

特にこうして並べてみると特にそれほど大きな驚きはない。ああ、こういう人いるよな、と思う部分もある一方、自分のまわりではあまりこのような後悔をしそうな人が少ないのは、時代が多くの生き方を尊重する方向に変わってきたからかもしれない。

上に挙げた5つの後悔以外にも、人生の最期を迎えた人々の様子を本書を通じて知ることで、考えさせられる部分が多くあった。印象的だったのは周囲の人に酷い言葉を投げかけられた時の考え方である。

「誰かがあなたに贈り物をし、あなたがそれを受け取らなかった場合、その贈り物は誰のものですか?」…そもそも幸せな人の口からそういう言葉は出ない。

死の床で人生を振り返って、もっと物がほしかったとか、なにかを買えばよかったと言った人を私は一人も知らない。

また、死に直面した人の様子を描くのとあわせて、いろんな悩みを抱えながら生きている著者自身の破天荒な生き方も見せてくれるのが面白い。そして、様々な自らの死や、家族の死に直面して戸惑う人々をみて思うこととしての感想ももっともだと感じた。

これは我々の社会が死を人々の目から隠しているために怒る明らかな弊害の一つだ。死に直面すると、人は様々な疑問を持つ。自分もいつかか死ぬのを認識していたら、こうなるずっと前に納得のいく答えを見つけられるだろう。

さて、このように人生の後悔の代表例を知った僕たちは、これを避ける努力をすることができる。僕自身の人生は、今は比較的うまく行っているように思えるが、時々自分を振り返って、後悔をする生き方をしていないか確認するようにしたい。

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「The Word is Murder」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2020年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。ある女性が自分の葬儀の手配をしたその日に殺害された。そんな興味深い事件を教えてもらったAnthonyは元刑事のHawthorneとともに事件を本にすることを前提として事件の捜査に参加する。

小説と実際の作者の世界が交わるという点では、「Magpie Murders」と似ている点もある。また本書は著者自身を主人公としており、スピルバーグ等実際に存在する人物も何人か登場することからどこからが小説でどこからが現実の話なのかわからなくなる点も魅力と言えるだろう。

自らの葬儀を手配した当日に絞殺されたDiana Cowperだったが、調査を重ねるうちに、10年ほど前に自らが運転する車の交通事故である少年が命を落としていることがわかってくる。Dianaの死はその少年の死に関係があるのか。AnthonyとHawthorneは捜査を続けていく。

そんな真実を追求する動きのなかで、Anthonyはなかなか自分のことを語らないHawthorne人間性に疑問をもち、やがて自分一人で真実を見つけようとするのである。

本書もこのミステリーはすごい!海外編第1位を獲った作品ということで期待値が高かったが、前作「Magpie Murders」の衝撃が大きかったのでそれに比べるとやや物足りない感じを受けた。

「All the Light We Cannot See」Anthony Doerr

「All the Light We Cannot See」Anthony Doerr
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第二次世界大戦下、フランスで生きる目の見えない少女Marie-Laureと、ドイツで妹とともに生きる少年Werner Pfenningを描く。

パリの美術館で働く父のもとで過ごす、目の見えない少女と、ドイツで妹ともに貧しい生活を送りながら、ある日見つけたラジオに魅了される少年を交互に描く。過去と今を行ったり来たりしながら物語は進む。

Marie-Laureの父は目の見えない娘のために、自分たちが住んでいる地域の詳細な模型を作って娘に覚えさせる。やがてそれによってMarie-Laureは外に出歩くことができるようになる。やがて戦争が始まり、パリから海岸近くの街に住むk親戚のもとへと避難する。その際、父親は一つの宝石を預かるのである。持っているものは死なない代わりに、その周囲の人が不幸になるという宝石である。父親はその宝石が本物かどうかを疑問に思いながらも託されたものとして大切に扱う。

一方でWernerは妹のJuttaとともに他の孤児たちとともに生活するなか、ラジオに魅了され、分解、組み立てを繰り返しながらその技術を伸ばし、やがてその技術を必要とするドイツ軍の前線へと派遣される。ドイツ軍の行いを知らずに自らの技術が評価されたことを喜ぶWernerと、禁止されているラジオでドイツ軍の行いを知って疑問に思う妹Juttaは少しずつ距離を置いていく。

Is it right to do something only because everyone else is doing it?
みんながやっているかという理由だけでするのは正しいの?

また、ドイツ人将校Von Rumlpelは少しずつ体に不調をきたすなか、戦乱に乗じて噂を聞いた命を永らえさせるその宝石を見つけようと務める。やがて、少しずつMarie-Laureへと近づいていく。宝石の奇跡を信じるVon Rumlpelは父の教えに従って行動するのである。

See obstacles as inspirations.
障害を良い刺激として見るようにしなさい。

不可思議な宝石Sea of Flames、目の見えない少女、ラジオの好きな少年、やがてそれぞれの人生が近づいていく。

第二次世界大戦のヨーロッパの様子を描いた作品は、どちらかというとアメリカ視点のものに出会う機会が多いので、本書のように、ドイツ人、フランス人目線で描かれたものは新鮮である。戦時下の情報統制の中必死で生きる少年少女を描いた優しい物語。

「デザインの基本ノート 仕事で使えるセンスと技術が一冊で身につく本」尾沢早飛

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
いつものようにデザイン関連の本はすべて読むつもりでいるので、本書にはそんな流れでたどり着いた。

本書の著者は紙媒体向けのデザインを多く手掛けているらしく、印刷に関する内容が多くて改めて学びになった。また、全体的に例として挙がっているデザインが非常に綺麗で洗練されており、何か作りたくさせてくれる良い刺激になった。

印象的だったのは、あまり他のデザイン書籍では取り上げていない、視線誘導の重要性とそのテクニックについている点である。日本のデザイン業界でもただ単にフォーカスだけでなく視線誘導の重要性をもっと語るべきだと考えている身としては、本書はかなりお勧めできる。久しぶりに出会った、手元に置いておきたいと思えるデザイン書籍である。

【楽天ブックス】「デザインの基本ノート」

「JR上野駅公園口」柳美里

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
上野で生きるホームレスを描く。

特に大きな山場はない。上野の公園を根城にしながら、若き日のことを思い返す1人のホームレスの心を描いたいる。。福島から、家族のために出稼ぎに東京に来てお金を送るという生活をしてきた。やがて、家族が1人ずつ先立ち、東京で一人で暮らすことにしたのである。

家族や子供に先立たれるのは悲しいのは当たり前だが、そんななか特に悲しいと感じたのは、妻の節子の亡くなるシーンだろう。近くにいるひとには常に感謝の気持ちを伝えたいと思った。

そんな苦労と不幸の果てに行き着いたホームレスという存在に、社会や政府は容赦ない仕打ちを与えていくのである。天皇やオリンピックとい存在を優先されるさまは、世の中の構造の歪みを感じさせる。

僕らが普段、あまり意識することのないホームレスの生き方を描いた作品。誰もが最初からホームレスだったわけではなく、それぞれの人生の最後にそこにたどり着いたのだと気づかせてくれる。

【楽天ブックス】「JR上野駅公園口」