「伝わるデザインの授業 一生使える8つの力が身につく」武田英志

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
デザインの8つの力にフォーカスして紹介している。

僕自身すでにデザイナーを初めて20年近く経っているので、本書のようなどちらかというと初心者デザイナー向けの書籍にはそこまで多く学ぶ部分があるわけではないが、そでも0.1%でも学びがあれば自分のデザイナーとしての力を向上させることができる、そんな思いで本書も手に取った。

本書でいう8つの力とは

  • かんんたんに見せる
  • 正しく伝える
  • フォーカスを当てる
  • 情報を可視化する
  • ストーリーを作る
  • 想像させる
  • アイデンティティを作る

の8つで、ある程度経験を積んだデザイナーであれば当然のように知っていることばかりだろう。そんななか印象に残ったのは「想像させる」の章にあった象徴化のプロセスである。本書では象徴化のプロセスとして

  • 言語化・・・コンセンプトやメッセージを書き出し、訴求したいメッセージを確認する
  • 抽象化・・・訴求したいメッセージの中から中心となるものを抜き出す。
  • 象徴化・・・概念やメッセージを具体的な形を持つ別のものに置き換える
  • 具現化・・・象徴化したビジュアルのディティールや配色を整え、実際のデザインに使用できるようにする。

という4つのステップを挙げている。僕自身が普段行う方法として、言語化から抽象化に向かう流れは少し異なる方法を取っていたのだが、無駄を削ぎ落として一文にまとめる本書の抽象化というステップは今後取り入れたいと感じた。

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「十角館の殺人」綾辻行人

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
半年前に殺人事件が起きた孤島に、大学のミステリー研究会の7人が宿泊することとなる。好奇心から宿泊を決めたが、やがて1人ずつ殺されていくこととなる。

最近のミステリーというジャンルはすでに非現実感は許容し、登場人物の中に犯人がいなければならない、とか、探偵が真相を解明する際の手掛かりは読者の目に触れてなければならない、などの暗黙のルールのもとに作られる、すでに小説とは別ジャンルの作品のように感じる。そんな非現実なミステリーの世界に久しぶりに触れたいと思い、最近よく名前を聞く本書にたどり着いた。

物語はある大学のミステリー研究会の7人が、半年前に凄惨な事件が起きた島に好奇心から宿泊することから始まる。携帯電話のない時代の物語なので、外部と連絡の取れない環境になるというミステリーの王道である。やがて予想通り1人ずつ死を遂げていくのである。島の外でも、元ミステリー研究会のメンバーが謎の手紙を受け取ったことをきっかけに真相を探る、という意味でミステリーとして若干ルールからはずれている気もする。

特に新鮮さも驚きもなかったが、本書は著者綾辻行人のデビュー作品でありかつ30年も前の作品なので著者の作風を判断するにはまだ早いと感じた。またミステリーに触れたくなったら手に取るかもしれない。

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「グラフィックの天才たち。」ペン編集部

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
過去の代表的なグラフィックデザインを紹介している。

亀倉雄策(かめくらゆうさく)やポール・ランドなどの有名なグラフィックデザイナーとその作品を、原研哉や佐藤可士和など現代のアートディレクターたちが言葉とともに紹介していく

亀倉雄策(かめくらゆうさく)は実は名前しか知らなかったのだが彼がTDKやNTTのロゴデザインをしたというのは本書を通じて初めて知った。パソコンが世に出ていない時代にどのようにデザインをするのか、インターネットがなかった時代にどのようにアイデアを生み出すか、それだけで想像を超えている。そしてそのロゴが今も変わらずに使われているというのが驚きである。

そんななか、もっとも印象的だったのがランス・ワイマンのメキシコオリンピックのロゴである。オリンピックの五輪と開催年の68を組み合わせたデザインは見事である。

デザインに関して大いに刺激をくれる一冊である。

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「デザインぺディア」佐藤可士和

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本を代表するアートディレクター佐藤可士和のデザインの考え方をまとめている。

すでに10年以上前の雑誌になるが、古くてもデザインの考え方は何かしら学ぶ部分があるだろうと思い手に取った。それなりにデザインについて熟知しているつもりでも、新たな視点や驚きを得ることができた。

そんななか佐藤可士和が以前言われたという言葉が面白い。

コレ、カッコつけてて、カッコ悪いなあ

どうしてもデザインというとカッコ良いものを作る、と思っている人はまだ多いようだが、実際には目的に応じてカッコ悪さを出すことも必要なのだ。そんなことを如実に表した一言だと感じた。また、これはデザインだけでなく人間においても言えることだと日々の感覚から思った。(カッコつけている奴が一番カッコ悪い)

そのほかにも、パスタのデザイン、レコードジャケットのデザインなど独自の視点でそのデザインの面白さを語る。そしてやがてAppleのデザインのすごさに至る。本書を読むまで、iPod Shuffleの画面をなくすという決断がすごかったという視点がなかったが、確かに組織として考えた時それはAppleという会社にしかできない大きな決断だったのだろう。

後半ではロシア・アバンギャルド、ロシア構成主義、バウハウスにも触れている。バウハウスはデザイン書籍の多くで取り上げられているので特に新鮮さはなかったが、ロシア構成主義、ロシア・アバンギャルドは本書で初めて知ったし、その印象的な写真と文字の使い方は、ぜひ仕事のなかにも機会を見つけて取り入れたら面白そうだと感じた。

冒頭でも語ったが、本書はすでに10年以上前に出版されたもの。しかし、今でも十分に役立つデザイン視点が詰まっていると感じた。

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「二つの祖国」山崎豊子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
真珠湾攻撃によって日本とアメリカの戦争が始まった。アメリカに住む日系人たちは収容所への移動を強いられる。日本とアメリカの間で翻弄される日系アメリカ人たちを描く。

日系二世の天羽賢治(あもうけんじ)はロサンゼルスにある日本人向けの新聞社で働いていたが、開戦をきっかけに家族とともに強制収容所に収容される。末の弟の勇(いさむ)はそんななか日系人の地位の向上を目指してアメリカ兵として戦争に参加することを決意する。もう一人の弟の忠(ただし)は開戦当時日本で学んでいたために、やがて日本兵としてせんそうにさんかすることになる。そして、賢治(けんじ)自身も自らの日本語能力を活かして戦争に参加し、前線へと送られていく。

戦争中のアメリカに滞在する日系人の複雑な心のうちを描く。あるものは日本に帰国し、またあるものはアメリカへ忠誠を誓うために戦争への参加を志願する。本書のように兄弟で別々の国から戦争に参加したケースが実際にあったかはわからないが、単純に日本とアメリカという国だけでは割り切れない複雑な人間関係があったことは間違いないだろう。

物語の前半はそのように真珠湾攻撃からポツダム宣言および原爆投下の戦争の終結までを描く。そして、後半2冊、日本の敗戦後の東京裁判に費やされる。東條英機を中心とする日本の責任者たちが連合国に裁かれる様子が細かく描かれるのである。

日本語と英語に明るい賢治(けんじ)はその東京裁判に翻訳の正誤をチェックするモニターとして参加する。人の人生にかかわる裁判の過程で、英語と翻訳された日本の微妙なニュアンスの違いに神経をすり減らす賢治(けんじ)の様子に、東京裁判の歴史的重要性だけでなく、むしろ言葉の奥深さを感じさせられる。

只今、肝をmind(精神)と表現しましたが、この場合はもっと強い意味で、will(意思)、intention(意図)、conviction(確信)の方が適役です。

また、真珠湾攻撃にあたって宣戦布告をしないで行った奇襲攻撃である、ということがアメリカ側が戦意向上のために使った話で実際には日本側は真珠湾攻撃に間に合うように最後通告を行っていたこと、11月26日のハルノート自体が実質的な宣戦布告という捉え方があるということなど今回初めて知った。

最後の山場は最終論告と最終弁論である。

被告らは、彼らが自衛のために行動したのであることをしばしば弁明したが、誰一人として日本を攻撃したり、侵略するという脅しを他国から受けたと主張した者はいなかった。

最終論告が自衛のための戦争という主張を否定するのに対して、最終弁論は自衛のための戦争の定義の曖昧さや、その法律の存在に疑問を投げかけるのである。

戦争を犯罪とせず、侵略戦争だけを犯罪として、その計画、準備、開始、実行の行為を犯罪とした場合、それが国際刑法上の原則として容認されるとすれば、侵略戦争と、戦争との限界が明確に示されねばならぬ。

法は共通の義務意識である。刑法はこれを無視すれば罰を受ける義務を伴う共通の義務意識である。政治家はこれまで国際法上の義務に違反すれば、軍法上の刑罰を科せられるという共通の義務意識の下には、その任務を行っていなかったのである。

やがて東京裁判は数人の戦争責任者への判決で幕を閉じる。東條英機を含む戦争の責任者たちが死刑になったことは知識としては知っていたが、このような過程を経て判決が出たことを知って、その問題の複雑さを改めて認識することができた。そもそも裁判とはなんのために行われるべきなのだろう。そんなことを考えさせられた。

これまでも山崎豊子の作品にはいくつか触れており、いずれも膨大な取材に裏打ちされた物語ですばらしいものだったが、本書こそその作家人生の集大成だと感じた。本書はアメリカと日本語という二つの国の間で翻弄される人々を描いているが、日系人をジャップと呼びながらその活躍を感謝したり、勝ったアメリカの人でありながらもアメリカの正義に疑問を投げかける人がいたりと、改めて人は多様なのだと気付かされた。決して所属や国籍から人を判断することはできないのだ。

もっと早く読んでおくべけばよかった。教科書で学んだだけの太平洋戦争のイメージが大きく変わるだろう。

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「Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法」ロルフ・ドベリ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
よりよい人生を送るための51の思考法を紹介する。

よりよい人生を送るための考え方を紹介している本は世の中にたくさんあり、本書もそのうちの一つでいくつか他の本にも共通することが含まれていたが、このような本は、似たようなことでも繰り返し触れることで自らの生き方の精度を上げるために役立てるべきなのだろう。

本書では51の章に別れていてぞれぞれの章で1つの思考法とその考え方や例について語っている。51のなかで印象に残ったのが次の4つの思考法である。

大事な決断をするときは十分な選択肢を検討しよう

天職を追い求めるのはやめよう

世界で起きている出来事に責任を感じるのはやめよう

世界を変えるという幻想を捨てよう

1つめは選択肢の中からベストな答えを選び出す秘訣を書いている。秘書問題という100人の秘書を順番に面接していって次の候補者と面接するまでに前の候補者に回答を出さなければいけないとしたときに、100を数学定数e(約2.718)で割った数、つまりこの場合は37人を不採用にしつつ優秀な人間のレベルを把握し、残りの53名の面接で最初に同程度優秀な人を採用するのがもっとも効率が良いのだという。恐らく、だれもが、感覚的にやっていることを数値的に示してくれた点が興味深い。

後半の3つは自分の人生を過大評価し過ぎるのをやめようということである。決して自己批判的になるわけではないが、1人の人間ができることは限られているので、むやみに仕事や人生に大きな意味を求めすぎず、今ある環境で楽しんで生きることこそより良い人生を送るのに大切なのだろう。

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「壬生義士伝」浅田次郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
南部藩を脱藩して新撰組に入隊した吉村貫一郎(よしむらかんいちろう)は大坂・南部藩にやってくる。その人生はどんなものだったのか、新撰組で吉村(よしむら)と同じときを過ごした人々がその人がらを語る。

先日読んだ司馬遼太郎の「燃えよ剣」に続いて新撰組を描いた物語に触れたくなった本書にたどり着いた。

面白いのは新撰組に在籍し生き残った隊士たちの証言によって物語が構成されているところだろう。また、どちらかというと新撰組は土方歳三(ひじかたとしぞう)を中心に最後まで戦い抜いた英雄のような扱いを受けているにも関わらず、本書では、武士になりきれなかった百姓たちが見栄と面子の芝居をしている、と切り捨てている。描く人が異なればまた解釈も異なる。そんなことを改めて感じた。

やがて、様々な生き残りの隊士の証言から少しずつ、吉村貫一郎(よしむらかんいちろう)の生き方が見えてくる。新撰組の物語では土方歳三(ひじかたとしぞう)、沖田総士(おきたそうし)、近藤勇(こんどういさみ)に焦点が当てられることが多いが、そんな時代の影にいきた1人の男の信念に沿った生き方を描いた物語。

それにしても浅田次郎の作品は、史実をベースに見事に物語に仕上げた作品と、そうでない軽めの物語の出来、不出来の差が大きいと常々感じているが、本書は良い方の作品と言えるだろう。

【楽天ブックス】「壬生義士伝(上)」「壬生義士伝(下)」