オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第152回直木三十五賞受賞作品。
イランで生まれ日本で育った圷歩(あくつあゆむ)の物語。
イランで生まれたことと、姉が少し変わった女性であったという点で、歩の人生は同年代の人間とは少し異なっていた。そして、父のエジプト赴任によりエジプトでの生活も経験していたことである。そしてやがて両親の離婚という一家の危機も経験するのである。本書はそんな歩がアラフォーになるまでを描いた物語である。
僕にとって印象的だったのは、歩(あゆむ)が僕自身と一歳しか違わない同世代の男だということである。高校生の時に阪神大震災を経験し30代前半で東日本大震災を経験するなど、人生の重要なできごとが年齢的にも重なることが多く、読み進めながらついつい自分自身の人生を振り返ってしまう。そういう意味ではアラフォー世代の読者の心には強く響く部分があるだろう。
また、もう一つ印象的なこととしては、歩(あゆむ)自身が決して貧しい家で育ったわけでもなく、むしろ裕福な家庭で育ちながらも、姉の奇行や両親の離婚という悩みを抱えている点だろう。物質的に豊かでありながらも心が満たされない様子がひしひしと伝わってくるのである。
大学時代はその甘いマスクを武器に女性に不自由しない人生を送りながら、20代ではそれなりにやりたいことをする思い通りの人生を送りながらも、30代を過ぎて見た目や体の衰えとともに人生の陰りを感じるあたりはなかなか他人事として片付けられないリアルさを感じてしまった。
自分の人生を振り返りその意味を改めて考えたくなる一冊。歩がエジプトで小学生時代を経験しているため、「アラブの春」と呼ばれるイスラム諸国の民主化の流れに再び興味をもたせてくれた。
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