オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカ人の自転車選手ランス・アームストロングの半生。自転車選手として頭角を現す過程と、睾丸癌により死の淵に立たされてから再び復活するまでを描く。
「マイヨ・ジョーヌ」とは、世界最高峰自転車レース、ツールドフランスでトップの選手が着ることを義務づけられたウェアのこと。とはいえ本書は自転車選手の生涯というよりも、著者自身が強調しているように癌という病気から復活した一人の人間の物語と言う側面が強い。
本書のなかでは病気に限らず、自転車レースがメジャーではないアメリカという国で育った故に、ランスが直面することになった困難が描かれている。その困難を克服する彼の信念は培ったのは、その周囲の人々によるところが大きい。特に、ランスの母が彼に接する様子は非常に印象的である。女手一つで息子を育てながら、常にランスの考えを支持し、決して彼のやることを否定せず、常に挑戦することを求め続けたのである。
そして、睾丸癌の告知。生死の縁に立たされたことのある多くの人同様、それまでやや傲慢だったランスの考えが次第にではあるが大きく変わっていくのがわかる。
そして終盤は妻、キークとの出会いと、失意の日々から抜け出してツールドフランスで優勝するまでが描かれている。キークもランスの母と同様、非常に洗練されて思慮深い女性として描かれていて、母とキークだけでなく、ランスが多くの理解者にめぐまれていたということが全体を通じての印象である。
著者ランス自身が、その闘病生活を振り返って、「それまで言われた言葉のなかでもっともすばらしい言葉」として看護婦がランスに言った言葉がある。
「明日死ぬとしたら」という問いは、生きている時間の大切さを考える上でよく投げかけられるものではあるが、なかなかそういう風に生きられるものではない。人は怠けるし、現状に甘んじてやるべきことを、いつでもできること、と思ってしまう。本書で描かれているランスの人生はまさに、そんな怠けた心に活を入れてくる。僕はやるべきことをやっているか。やりたいことをやっているか、と。たまたま自転車レースについて調べて本書を知ったが、読み終えて思うのは、本書はもっと多くの人に知られて、もっと多くの人に読まれるべき価値のある本だということ。
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