「アリアドネの弾丸」海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
不定愁訴外来の田口公平(たぐちこうへい)は新たに設置されるエーアイセンターのセンター長を任される。しかし、不審な事件が起こり始める。
エーアイとは、「Autopsy imagin」のっ略で死亡時画像診断とも言われており、著者海堂尊(かいどうたける)はデビュー作の「チームバチスタの栄光」からその利便性を訴えている。そして同時に、その利便性にもかかわらずその使用が広まらないのが、解剖という行為が司法と医療という境界上に位置するためその利権争いによってであるとも、繰り返し著書のなかで触れられている。
さて、本書も当然そのような話が多く触れられているが、ミステリーとしてもなかなか傑作に仕上がっている。なんといっても、エーアイセンターが発足するにあたって田口公平(たぐちこうへい)は「チームバチスタの栄光で」活躍した白鳥圭輔(しらとりけいすけ)と「イノセントゲリラの祝祭」で強烈な印象を残した彦根新吾(ひこねしんご)をオブザーバーおよび副センター長に据えるから、このシリーズを読み続けている人にとっては興奮させる展開である。2人のロジカルモンスターが競演するのである。
そして物語は、コロンブスエッグと呼ばれる縦型MRIの周辺で起きた殺人事件の真相解明へと移っていく。強烈な磁場を形成するMRIゆえにその周囲での金属の取り扱いに注意しなければならない、読者はすぐにそれが何らかのトリックに使われるだろうことは気づくだろう。それをどう物語に仕上げ、それをどう解決するか、それが本作品の鍵であるが、個人的には十分及第点をあげられる内容といえる。

もしも医療主導でエーアイセンターが完成したら、エーアイが第三者として司法解剖を監査できる。警察は捜査現場の問題を、司法解剖の闇に紛れ込ませ誤魔化してきた。それが全部明るみに出れば、法医学者はもちろん、警察にとっても死活問題だ。

エーアイという題材を用いてミステリーを描き、訴えたい内容をしっかりと読者に伝えるそのバランスがすごい。
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