オススメ度 ★★★★☆ 4/5
箱根駅伝への出場を逃した大学の中から選ばれて作られる学連選抜。複雑な思いを抱えて各大学から集まった選手たちが一つのチームとなって箱根駅伝での優勝を目指す。
真面目に見たことなどないが、箱根駅伝と言えばもはや知らないものはいないだろうともうぐらいの正月の一大イベントで、そこで起きる様々なドラマ。襷を繋ぐことにかける選手たちの熱い思いもなんとなく想像できる。しかし、そのイベントの知名度のわりにはそれを物語とした小説やドラマなど、本作品に出会うまで聞いたことすらなかった。本作品を読むと駅伝というのが非常に物語に向いていると感じるのだが、ひょっとしたらそれは著者の力量によるものなのかもしれない。
単純に箱根駅伝を扱うなら、それはおそらくそのなかの出場大学に焦点をあてるのだろうが、本作品が選んだのは「学連選抜」というチーム。どんなチームスポーツにおいても選抜チームのつくる記録というのは常に、チームスポーツの意義に疑問を投げかける可能性を持つ。単純に優れた選手だけを集めて勝ててしまうなら、はたしてそれはチームスポーツなのか?長年かけて育んだチームワークの勝利への貢献度が低いのであれば、それはもはや個人競技なのではないか、そんな疑問である。
さて、そんな学連選抜チームのなかでも、本作品は特に4人の選手を中心に描いている。昨年10区で失速し、今年こそリベンジを、と思いながらも大学自体は箱根出場を浦(うら)。「化け物」と呼ばれるほど優れていながらも所属した大学のほかの選手の力不足で箱根出場を逃した、山城(やましろ)。かつては浦(うら)と同じ陸上部に所属しながらも、進んだ大学のほかの選手の志の低さに流され、本気で気持ちを入れては知ることをしなくなった門脇(かどわき)、そして実力はありながらも1年生と経験の乏しい朝倉(あさくら)である。特に際立っているのは、箱根はいずれ走るマラソンへの調整と位置づけ、チームワークを軽んじる山城(やましろ)だろうか。
それでもそこはこういうった物語の常で、衝突を繰り返しながらも少しずつ一つにまとまっていくのであるが、その過程でみえる駅伝というスポーツの異質な面や、箱根駅伝というスポーツの奥深さが非常に好奇心を刺激する。
なんか来年の正月はちょっとテレビを見そうである。一気読みの一冊。
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