オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第140回直木賞受賞作品。
その場所で亡くなった人が、誰に愛され、誰を愛していたかを尋ねて、記憶にとどおめておくために旅をしている男、「悼む人」を描いた物語。
「悼む」という行為を行いながら日本を旅する坂築静人(さかつきしずと)の行動はなんとも奇異に映る。無意味なのか自己満足なのか、偽善なのか、とにかく近づいてはいけないもののように感じる。そして、「その行動にどんな意味があるのか・・・」そんな読者が当然のように抱く疑問を、静人(しずと)が旅先で出会う人は問いかける。
そして、また静人(しずと)の母、巡子(じゅんこ)は娘の妊娠を機に、静人(しずと)の生き方の理由を家族に知ってもらおうとする。巡子(じゅんこ)の語りによって、過去の静人(しずと)の経験してきた、親しい人の死など、「悼む」という行為に駆り立てたできごとが明らかになっていく。きっと、読者もその行為自体に、なにか意味を感じることができるようになるのではないだろうか。
よく言われることだが、たとえどんなに印象的な凶悪な事件さえも、一週間ほどワイドショーや新聞の紙面をにぎわせればすぐに人々の記憶から薄れていく。凶悪犯だろうが、殺人犯だろうが、区別なく記憶にとどめようとしていきていく静人(しずと)「悼む人」の行動とその動機を描くことで、逆に、人の死がどれほど簡単に忘れ去られていくかを際立たせて訴えかけているようだ。「人の存在」というものについて考えさせられる何かが本作品に感じられる。
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