「ベルカ、吠えないのか?」古川日出男

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
太平洋戦争末期に太平洋の島に残された日本の軍用犬、北、正勇、勝と米軍のエクスポロージョン。4頭の犬たちはさまざまなかたちで子孫を作り、その血は、戦争の時代に翻弄され世界に広がっていく。
最初の4頭の子供たちはその類稀なる才能ゆえに、ある犬は犬橇でその才能を生かし、あるものは、先祖と同様に戦争でその才能を発揮する。
太平洋戦争から、冷戦の時代に入り、ベトナム戦争、アフガン戦争と20世紀に起こった戦争や紛争、そして、それだけではなく、米ソの宇宙開発など、歴史的な出来事とその背景を描きながら犬たちの動向を描いていく。むしろ20世紀の戦争史として読んだほうが期待に沿うかもしれない。
そして、軍用犬を戦力として重宝する国々によって、気がつけば数世代前には兄弟だった犬たちが敵と味方に分かれて戦っているのである。
考えてみれば人間の所在は、国籍や民族などしっかりと記録されているが、犬においてはそのようなものはなく、その犬の先祖がどこで生まれたか、とかその犬の従兄弟が今どこで何をしているか、など正確に把握することなどまず不可能なのだろう。そう考えると本作品が描く世界は、決して物語のための誇張とはいえないのかもしれない。
そういった意味では本作品は間違いなく斬新的な作品と言える。ただ、斬新的ゆえに読む人によって好みが分かれし、僕としても、もっと少ない数の犬に集中して描いてくれたほうがありがたく、犬も人間も誰一人共感できる形で描かれていないことによって、ずいぶん読みにくさを感じてしまった。
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