オススメ度 ★★★★★ 5/5
祖母が亡くなって、実は祖父だと思っていた人が血の繋がらない人だと知った。本当の祖父は戦争中に特攻で死んだのだという。ニートの「ぼく」はライターの姉とともに、実の祖父のことを調べ始める。
太平洋戦争中に特攻で死んだ実の父宮部久蔵(みやべきゅうぞう)を探して、宮部(みやべ)を知る老人たちに話を聞くことで、少しずつ宮部(みやべ)の人柄が見えてくる。物語は存命中の老人たちが昔を語るシーンで大部分を占めている。そして、宮部(みやべ)はどうやら零戦のパイロットだったらしいと知る。
話を聞かせてくれる老人たちは必ずしも宮部(みやべ)に好意的な人たちばかりではない、「命の恩人」というものもいれば、宮部(みやべ)を「臆病者」と言うものもいる。いったい真実はどうだったのか。
数人の老人たちが異なる目線から太平洋戦争を語り進められていく。戦争とは多くの物語や映画などで何度も取り上げられるテーマではあるが、それでも今回またいくつもの新しいことを知ることができた。まずは、零(ゼロ)戦という戦闘機がどれだけずば抜けて優れていたかに驚くだろう。戦後の経済成長のずっと前の、まだ日本など小さな島国だったころに、その技術の結晶の戦闘機が大国の戦闘機を凌駕したのである。
そして、ミッドウェー、ガダルカナルの末に戦況は悪化し、その犠牲となった若者たち。そして特攻。経験者目線で語られる言葉に重みを感じる。
出世を意識するがゆえにアメリカへの勝機を逃しただけでなく、敗戦を認めることなく無意味な作戦を取り続け、結果として多くの若者たちが犠牲となった。
あの状況の中で「勇気」とはなんだったのだろう。「特攻は勇敢だ」と言うが、それが「勇気」なのだろうか。
そして物語は終盤に進むにつれて、宮部(みやべ)の人柄と、その恐ろしいほどの零戦の操縦技術が見えてくる。
読者に与えてくれる知識や、忘れてはならない歴史を再確認させてくれる。この悲劇は遠い昔の出来事ではなく、僕らが確かにその延長線上にいるのだということこを意識させてくれる。
戦後、民主主義の名の下に戦前の行為を否定し、今では日本をけなして外国を賞賛する人のほうがかっこいいという風潮まで出来上がっている。太平洋戦争の悲劇や、そこで生きた勇敢な人たちの生き様に触れて僕らは考えるだろう。「僕らの生き方はどうあるべきなのだろうか。」と。
物語の面白さだけでなく、読者に投げかけるテーマも含めてなんの文句もない。こういう本に出会うために読書をしているのだ、と思った。
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