オススメ度 ★★★★☆ 4/5
兄を失った失意のリョウがたどり着いたのは、もうひとつの世界。その世界ではリョウは生まれずに、代わりに姉のサキが生きていた。
別の世界に飛び込んでしまうという突飛な展開ながら、決してその非現実な舞台設定で読者を遠ざけることなく、そこから描かれる世界観はむしろ妙に引き付けてくれる。なぜなら、リョウとサキはお互いの世界の違いが自分たち2人がそれぞれの世界に及ぼした影響だということに気付いていて、それが自分自身の世の中に対する存在価値だと気づいて行くからである。
1人の人間が男か女か、そしてその性格の違いだけで、少しずつ世界に違いが生じている。あるはずの木がなかったり、捨てたはずの皿が残っていたり、死んだはずの人が生きていたり…。
やがてリョウは自分がやってきたこと、やらなかったことの意味に気付いていく、ラストはもちろん読者次第だと思うが、僕の中には他の作品では味わえない感情を起こしてくれた。僕らはこんな非現実な経験をすることはまずないが、それはむしろ幸せないことなのかもしれない。また、舞台が石川、福井と北陸地方で、その観光名所がうまく物語に取り入れられている点も面白いだろう。
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