「TOKAGE 特殊遊撃捜査隊」今野敏

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大手都市銀行の行員3名が誘拐された。警視庁捜査一課特殊犯係の上野(うえの)も捜査員として加わることになる。
誘拐事件を扱った物語と言ってしまえばなんともありきたりな印象を与えるかもしれないが、そこは今野敏らしく登場人物もそれぞれから事件を見つめる視点も個性的で魅力的な作品に仕上がっている。
そのタイトルの通り本作品はトカゲと呼ばれる警視庁捜査一課特殊犯捜査係の覆面捜査部のメンバーに焦点をあてているが、そのトカゲの中にも経験豊富な涼子(りょうこ)と、訓練は積んできたが誘拐事件にかかわるのは初めてという上野(うえの)という対照的な存在があり、その二人のやりとりが非常に面白く描かれている。
涼子(りょうこ)は女性でありながら誰もがその能力を認めており、今回の誘拐事件を通じて、初の実践となる上野(うえの)に多くを学ばせようとするのである。そんななか印象に残ったのは、今回の事件を通じて少しでも多くを学ぼうとする上野(うえの)が信頼できる上司である高部係長と同じトカゲの涼子の間で起こる阿吽の呼吸に対して嫉妬する箇所だろうか。

2人の間には他人が踏み込めない雰囲気がある。男女の関係ではない。優秀な捜査員同士の共感、あるいは連帯感だ。

本作品はそんなトカゲの2名だけでなく、前線本部や捜査本部でもそれぞれそこにいる人々の思惑が交錯し目に見えない駆け引きが繰り広げられる点が面白い。例えば前線本部、つまり本作品の誘拐事件では身代金を要求された銀行であるが、そこに詰める交渉のスペシャリストのたがみを含む警察職員と、事件は解決して欲しいが表には出せない多くの事情を抱える銀行の幹部社員たちのやりとり、そしてもちろん犯人とのやりとりも魅力である。
また、銀行を相手取った誘拐事件ということで、銀行が過去に行ってきた貸し渋りなどによって犠牲となった中小企業や、公的資金など世の中のあり方について考えさせられるような内容にも触れている。
久しぶりに今野敏作品を読むとやはりその読書を続けるのをさえぎられたくないというような物語の吸引力を感じる。
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