「Op.ロ-ズダスト」福井晴敏

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本を守るために秘密裏に訓練された若者達。極限まで鍛え上げられたその戦闘能力は、その仲間が、国の愚行の犠牲になったことを期にその母国へ向く。
「終戦のローレライ」以来、久しぶりに文庫化された福井晴敏の作品である。今回は国家間の駆け引きの末に辛い生き方を選んだ者たちの物語である。
国の愚行により友人を失い、それでも国を守ることを選んだ丹原朋希(たんばらともき)、そして友人でもありながらも、自分達の人生を狂わせた日本に刃を向けることを選んだ入江一功(いりえかずなり)をリーダーとする若者達。物語の構造はただ単にその両者の対立だけに終わらず、自衛隊、刑事警察、公安警察、など多くの権力を巻き込んで展開する。
刑事警察、公安警察、自衛隊。人の生死どころか国家の生き死にに関わる組織だからこそ、しっかりした命令系統を維持するため厳格な上下関係が遵守される。そんな中で葛藤する現場の人間達の気持ちは福井晴敏作品に共通する心を動かす部分でもある。
そんな中、組織を維持するため、国家を守るためとはいえ、予想される非人道的な行為に加担することをできれば回避したいという思いから部下の前で土下座したキャリアに、部下が投げかける言葉が強烈である。

我慢してんだよ。みんな我慢してしがみついてんだよ!その結果がこれじゃ、割に合わないでしょう?いつもみたいにしゃきっとして、まわりの人間見下してさ、我こそは日本の官庁様だって顔してろよ!

どの人物も、お金や地位だけでなく、家族の安全、地位や名誉など、一度に得ることのできないさまざまな欲求の中で葛藤し生きている。テロリストとして国に刃を向けた若者達でさえも、そこにはシンプルな信念が見えてくる。誰一人適当に生きているものなどいない。それぞれが必死に自分の信念に従って生きているからこそ時に大きな火花となって僕らの前に姿を見せるのだろう。
そして、物語中の対立は、基本的には日本対テロリストでありながら、局面では一緒に長い時間をすごした仲の良い友達同士の命賭けの戦闘へと姿を変える。

「なぜ、殺した…?おれの目は節穴じゃないぞ。狙ってやったな。なんでだ」

「…友達だから」

終盤、それまでサイボーグのように見えていたテロリストたちの一人一人の人間らしさが見え隠れするシーンはなんとも悲しく、そして、多くの人から恨まれようともここまで自分が満足できるなら、こんな短くても熱く燃える人生もかっこいいかも…、そう思わせる説得力さえ感じた。
テロリストの一人である射撃の名手、留美(るみ)が飛び交う自衛隊ヘリと交戦するシーンなどは本作品で特に印象的な場面である。

一機と言わずコブラが横たわり、そのうちのひとつはいまだ黒煙を噴き上げていた。まるでヘリの墓場だ。これはもはや人間の所業ではない。鬼神の為さしめる業だ。なぜこんなことになった。なぜ彼女が鬼にならなければならない。

期待に裏切らない作品だった。発端となった北朝鮮と日本の間の出来事から、最終的な対立構造を生み出すまでの出来事の推移まで、しっかりと描かれており、著者の力の入れ具合が伺える。文庫本で3冊、かつ文字のいっぱい詰まったページに圧倒されることもあるかもしれないが、読んで決して後悔することのない作品である。

撃たれるのが怖いからって、先手先手で撃ちまくってたら、そのうち自分以外誰もいなくなっちゃうわよ

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