オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アナザーヒルは、死者を迎える場所。人々はそこで故人との再会を楽しむ。ジュンはそんな不思議な場所に初めて訪れる。
タイトルからは壮大なファンタジーをイメージしたが、読み始めると予想以上に現実世界と陸続きな物語であることに気付く。もちろん、その舞台となっているアナザーヒルという場所は架空の場所であろうが、ジュンと同時期にアナザーヒルを訪れた人々は、いずれもヨーロッパやアメリカなどから来ている、というように現実世界とのつながりを感じさせてくれるため、その多くを想像力に頼らなければならない一般的なファンタジーよりもはるかに物語を受け入れやすい。
また、盟神探湯(くがたち)、鳥居、ヒガン、提灯行列、三位一体、ドルイドなど、日本を含む多くの国の風習が引用され、現実世界への興味を掻き立ててくれる点でも好感が持てる。
そして人の死を娯楽として楽しむアナザーヒルの人々の様子に触れるうちに、お墓を「幽霊の出る場所」として怖れ、葬式の場では歯を見せることを避ける僕らの感覚に違和感を感じるかもしれない。
死者を迎えるために窓や入り口を開けておくとか、アナザーヒルの家には窓の外側に死者が座れる椅子がついているとか、随所で著者の恩田陸が楽しみながら書いているのが伝わってくる。
ファンタジーでもありミステリーでもある。それでいて、多くの文化を取り入れた作品。ジャンルの枠を超えたほかに類を見ない作品である。
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