オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
精神医学研究所に勤める千葉敦子(ちばあつこ)はサイコセラピストであるとともに、人の夢に入って悩みなどを解決する夢探偵パプリカという顔を持つ。そんな人の夢に入ることができる世の中で、最新型精神治療技術「DCミニ」が発明されたことで、それを悪用しようとする人の行動をきっかけとして、次第に夢と現実の区別がなくなっていく。
最初この物語の世界観を理解するのにしばらく時間を要するだろう。ただ、夢という未だ謎の多い部分をうまく題材にしている。この物語の中で描かれているように、夢に出てくる人や物はなにかしら現実世界とリンクしていると僕自身も思う。例えば小さなころの思い出だったり、直前に読んだ本の内容だったり、願望だったり、本人の無意識の中にあるものが目に見える形で現れたものが夢なのだろう。おそらく多くの人間がそう思っているからこそ、この物語はただの架空の話としては片付けられないリアルさを持ち合わせているのではないだろうか。
そして、この物語でかぎとなる「DCミニ」と呼ばれる機器。これによって「DCミニ」利用者は双方の夢に入り込むことができる。2人の人間が1つの夢を共有したら、その夢は次第に意志の強いほうの望む世界に変わっていく。現実には夢を共有するなどということはありえない(あってもそれとわからない)ことでありながらも、きっとそうなるだろう、と読者を納得させてしまうその設定が面白い。合わせて、場所を移動していないのに気がつくと別の場所にいたり、いつのまにかに隣にいる人が別の人物になっていたり、という夢の特性を面白く描いている。
とはいえ、やはり冒頭で述べたように、この非現実な世界に入り込むまでに非常に時間がかかった。架空の物語でもある程度専門用語を書き連ねることによって読者にリアルさを伝える手法は僕自身嫌いではない。瀬名英明の「パラサイトイブ」の詳細な描写はその最たるものだと思っているが、そのような手法は物語の非現実具合と密接に関わってくるものだけに加減が難しいのかもしれない。個人的にはこの物語程の非現実の世界であれば、もっと単純でわかりやすい導入部分にしたほうが読者にとっては読みやすい作品になったのではないだろうか。
本作品は映画になったことを知って手に取ったわけだが、内容はまさに映像向きであった。夢と現実が混沌としたクライマックスは、アキラの大友克洋や宮崎駿が好みそうなである。機会があれば2006年に公開された「パプリカ」を観てみたいものだ。
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