「午前三時のルースター」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
サントリーミステリー大賞、読者賞受賞作品。
旅行代理店に勤務する長瀬(ながせ)は得意先の社長から、その孫の慎一郎(しんいちろう)のベトナム旅行への付き添いを依頼される。しかし、実際には慎一郎(しんいちろう)の本当の目的は5年前にベトナムで失踪した父を探すことだった。
物語の大部分はベトナムを舞台にしている。この作品とあわせて、真保裕一の「黄金の島」を読めばかなりベトナムの文化が理解できることだろう。常々言っていることであるが、自分の知らない世界や知らない考え方に触れられるのが度読書の至福の時である。そして、それは日本以外を扱った作品には特にそういう傾向が強い。
そして本作品では、慎太郎(しんたろう)がベトナムという普段触れているものとは違った文化に触れ、たくさんの刺激を受ける役割を担っている。印象的なのはベトナムで案内役として雇われた女性、メイが実は娼婦であると知ってショックを受けるシーンだろうか。慎太郎(しんたろう)はメイの行動に行為を持ちながらも、「娼婦」という存在に近寄りがたいものを感じるのである。

この国じゃ誰も好き好んで娼婦になる奴なんていやしない
結局は、感じること、気持ちとして残る部分がすべてに優先するんだと思った。どんな過去があろうがどんな仕事をしてようが、それでも相手のことを嫌いになれないのなら、最後にはそれがすべてなんだと思う。

豊かな国ではないから生き方も限られてくる。それでも日本という豊かな環境の中で育まれた考え方や常識に慎太郎(しんたろう)はとらわれる。これは慎太郎(しんたろう)が思春期の少年という未熟さゆえの考えではない。世の中の大部分の人間に当てはまることである。触りもせず話しもせず、人や物を「邪悪」と判断して自分の世界との接触を許さない人のなんと多いことか。
物語の目線は長瀬(ながせ)から動くことはないが、この物語は慎一郎(しんいちろう)の大人への変化の過程を見せようとしている。そこに込められた大人になるための大切な経験、大切な考え方。著者がもっとも訴えたいのはそれなのだと感じた。間接的な訴え方ではあるが多くの読者にきっと伝わるだろう。


ドイモイ
1986年のベトナム共産党・第6回大会で提起されたスローガン。日本語で「刷新」を意味する。市場経済導入や対外開放政策などを行った。(はてなダイアリー「ドイモイ」
パクチー
セリ科。インド、ベトナム、タイなど東南アジア料理によく使われる。消化を助け食中毒や二日酔いの予防に効果があるといわれてる。(はてなダイアリー「パクチー」
コロニアル様式
17〜18世紀に、ヨーロッパ諸国の植民地で発達した建築やインテリアの様式のこと。
参考サイト
ベトナムビジネス開拓サポート

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