「千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自衛隊の航空祭で最新ヘリが盗まれた。六本木にそびえるミッドタウンタワーには毎晩侵入者が現れる。中国大使館の敷地で企てられた陰謀に岬美由紀(みさきみゆき)が挑む。
今回も話題のオープン間近のミッドタウンを舞台に設定しており、最近の話題や社会問題を物語に取り入れようとしている姿勢が松岡圭祐らしい。山場の一つとなるギャンブルのカードゲーム「愛新覚羅」は物語を盛り上げ、同時に中国の歴史にまで興味を向けさせてくれる。また、そんな知識欲を刺激する内容以外で、本作品の中で印象的だったのが、岬美由紀(みさきみゆき)、雪村藍(ゆきむらあい)、高遠由愛香(たかとおゆめか)という、一見どこにでもいるような女性の仲良し三人組の人間関係についての描写である。

「友人同士らしい、由愛香(ゆめか)はいつも、藍(あい)を見下した態度でからかっている。」
ふたりの関係はその指摘とは逆に見えた。からかっているのはむしろ藍(あい)のほうだ。由愛香(ゆめか)のセレブ気取りを内心で嘲笑している。藍はときおり、その態度をあからさまにちらつかせるが、由愛香(ゆめか)のほうはそれを皮肉と気付かず、ますますのぼせあがるといった図式だ。

高遠由愛香(たかとおゆめか)は精神的に追い詰められて、美由紀(みゆき)に本音をぶつける。

そもそもあなたと付き合っていること時代、わたしにとっちゃ高級車を持ってるのと同じことだったの。クルマなんて走りゃいいけど、だからといって軽自動車じゃ世の中になめられるでしょ。岬美由紀(みさきみゆき)と友人だってうそぶいて、ずいぶん社交や取引で役に立ったわ。でも本心ではあなたって人、嫌い。

人間関係は必ず双方によってなんらかのメリットがあってこそ成り立つもの。それは僕自身が常々思っていることであるが、世間の人は「無償の愛」が存在すると考えたがり(もちろん「無償」が「金銭的のやり取りのない」を意味するのであればそれは存在するのだが)、この事実を認めたがらないようだ。本作品では美由紀(みゆき)の友人である高遠由愛香(たかとおゆめか)がそれをはっきりと表現しており、もちろんそれは世間一般的には受け入れられ難い行動なのだろうが、僕はその潔さは逆に良い印象を受けた。


光岡自動車
富山県に本拠地を持つ、日本第10番目の自動車メーカー。
ウィーン条約
ウィーン条約と呼ばれているものは多いが、国際法上最も重要かつ基本的なものが「外交関係に関するウィーン条約」である。1961年にウィーンで開かれた外交関係会議で採択された多国間条約で、53条から成り、外交関係の開設、外交使節団の派遣と接受、外交特権や免除など外交に関する諸問題を規定。外交特権では公館や公文書の不可侵や、外交官がいかなる方法でも抑留、拘禁されないことなどを定めている。
セルフ・ハンディキャッピング
失敗したときにその原因が自分の能力や意欲にあることがはっきりすると自尊心が傷ついてしまう。それを避けるために、あらかじめ自分自身にハンディキャップをつけて自尊心を守ること。

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