「幽霊人命救助隊」高野和明

オススメ度 ★★★★★ 5/5
受験に失敗して首吊り自殺を図った主人公の高岡裕一(たかおかゆういち)は、現世と天国の間で、同じく自殺を図って天国に行きそびれた3人の男女に出会う。4人は神と名乗る老人から、天国に行くための条件として、100人の自殺志願者の命を救うことを命令される。
この現実離れした設定から、正直あまり期待していなかったのだが、その内容は期待を大きく裏切るすばらしいものだった。
物語は裕一(ゆういち)を含む4人の幽霊が、自殺志願者達の悩みを知り、自殺に向いたその心を救う。ということを繰り返すのだが、裕一(ゆういち)達は幽霊となって現世に降りたために、自殺志願者に直接触れることはできない、その代わりに、自殺志願者の考えていることを理解し、彼等の心に直接訴えることができる。
彼等の救助劇を目の当たりにする過程で、人が持つ悩みの数々に触れることが出来る。悲観的だからこそ、悩む必要のないことで悩む人。法律に無知だからこそ救われる手段があるのに追い詰められる人。完璧を求めるがゆえに他人を信じられない人。そして同時に、人を自殺に追い込む一つの原因として、責任感の強い者が損をする、日本の社会の不平等さを訴えている。

この国には一億二千万人もの人々が生活しているのに、どうして孤独というものがあるんだろう
多種多様に見える悩みの中の共通点。他人から見れば「どうしてそんなことで」と言いたくなるような苦悩が多いのである。不確定なはずの未来を、不必要に怖れていると言ってもいい。悲観的に見える将来は、同時に好転する可能性をも秘めていることに本人は気づいていないらしい。
人間は白でも黒でもない、灰色の多面体なのよ。人間だけじゃない。すべての物事には中間があるの。不安定で嫌かもしれないけど見つめなさい。いい人でもあり悪い人でもあるあなたの友達を。やさしくて意地悪な、あなた自身を

また、死ぬことを美とする日本の文化にも疑問を投げかけている。

人は皆、いのちを投げ出すという行為に崇高さを感じ取ってしまう。特に日本には、切腹した武士とか戦争中の特攻隊の話が語り継がれて、何かあれば死ねばいいという危うい風潮ができあがってしまっている。たとえ歴史に名を残さなくとも、何があっても生き延びる人間のほうが崇高なはずなのに。

そして、裕一たちは、そんな自殺志願者たちの救助作業を繰り返すうちに、「死」というものが決して美しくないこと、自分たちが大切な命を粗末にしたことに気付く。裕一(ゆういち)が、遺された自分の家族の心に触れるラストは涙無しでは読めないだろう。以前から、自殺という人間の心理に興味を持っていた僕にとっては非常に満足の行く作品であった。


傷痍軍人
戦傷を負った軍人のこと。
ウェルテル効果
一般的に知名度があるカリスマ的存在の人間が自殺すると、連鎖的に自殺が増えてしまう現象を指す。連鎖自殺、誘発効果、ドミノ連鎖とも言う。
任意整理
裁判所などの公的機関を利用せず、司法書士などの専門家が私的に債権者と話し合いをして、借金の減額や利息の一部カット、返済方法などを決め、和解を求めていく手続のこと。
オルグ
organizeまたはorganizerの略で、(特に左派系の)組織を作ったり拡大したりすること。組織への勧誘行為。および、それをする人のこと。
傅く(かしずく)
人に仕えて大事に世話をすること。
参考サイト
自殺(Wikipedia)

【Amazon.co.jp】「幽霊人命救助隊」

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