オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
今多コンツェルン会長の専属運転手だった梶田信夫(かじたのぶお)が自転車に撥ねられ、頭を強く打って死亡した。遺族である梶田の娘の梨子(りこ)と聡美(さとみ)は父である梶田についての本を出版したいという。そこで今多コンツェルンの広報室に勤める杉村三郎(すぎむらさぶろう)は梶田の過去を調べることになる。
どんな人にも大きな人生があり、山があり谷がある。それを轢き逃げした犯人に訴えようとする梨子(りこ)の気持ちは理解できる。
道端ですれ違う人、その一人一人に「その人の人生がある」ということを常に意識できれば、多くの小さな争いがなくなるのに、と思った。
物語の中では主人公である杉村(すぎむら)の考え方が多く出てくる。読み進めながらその考え方に触れていくうちに、僕自身が持っているどっちつかずのの考えは、他の多くの人も持っているものであるような感じを抱いた。
「判断を保留している教え」そんなものを誰しも心の中に抱えているのだろう。それに対して自分なりの判断を下すたびに人は成長していくのかな・・そんなことを思った。
物語全体としては、自転車による交通事故という普段はあまり目が向けられない問題、そして恋愛の形の多様性という新たな視点を僕に与えてくれた。しかし、書店で本書を手にとったときに期待した、宮部みゆき特有の鋭い文章はなりを潜め、残念ながら一般的なサスペンスの域を出ないと言う感想である。当たり外れの激しいこの著者の作品の中で、この作品は「外れ」に該当してしまう。期待が大きい分評価が辛口になってしまう。
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